3歳児から5歳児までの子どもたちの保育園、幼稚園、認定子ども園等の費用を無償とすることを含む「子ども・子育て支援法の一部を改正する法律案」が2019年2月12日に閣議決定され、同日、衆議院に提出された。
 幼児教育の無償化については、社会保障の普遍主義の観点から、将来的に全世帯での無償化を見据えた議論には意義がある。

 他方、喫緊の課題として深刻な待機児童問題が存在する。
 2018年4月時点の待機児童数は1万9895人、潜在的待機児童数は6万7899人となっており、今年も、2月に入った時点で、すでに都市部における待機児童問題が顕在化し、保育園に入れなかったという悲鳴がわき上がっている。無償化はより一層の保育の需要を喚起することにつながり、待機児童問題がより深刻化することが予想される。
 認可保育園に入園できる子どもと、入園できない子どもとの不平等が生じている現状の拡大は、子どもの人権保障の点からも、また、親の就労権を支えるという点からも避けなければならない。国は、待機児童解消の実現に努め、そのために地方自治体に配慮した積極的な支援策が進められるべきである。

 また、保育の質の確保はきわめて重要である。
 保育現場では、保育士不足が深刻化している。その要因として、全産業平均を大きく下回る保育士給与の低さや長時間労働があげられる。保育士不足を解消していくためには、保育士への十分な処遇の実現が必要である。

 あわせて、わが国の保育士の配置基準は、たとえば1才児については、子ども6人に保育士1人、4才児から5才児については子ども30人に保育士1人、というものであり、世界的にも極めて低い基準と言われている。
 今回の幼児教育無償化による保育需要の喚起は、上記配置基準の遵守が困難となるような事態を生じさせ、これにより保育の質の低下を招く危険性がある。子どもの健やかな発達と安全な生活を保障するためには、保育士不足の解消及び配置基準の維持・向上による保育の質の確保が不可欠である。
 また、保育の質が確保されなければならないことは、認可外保育所についても同様である。

 なお、今回の幼児教育無償化では、3歳児以上の副食材費を新たに実費徴収される方針が示されている。しかしながら、給食も保育の一環であり、従前は3歳児以上を含めて副食材費等は公的な保育所運営費に組み込まれており、保護者からの実費徴収は給食については主食費に限られてきた。現在の保育制度では、保育料については保護者の収入に応じた応能負担とされているが、上記改正がなされた場合には、保護者収入が低い世帯において、現行制度より重い負担が生ずる可能性がある。負担が増大するような事態は、避けなければならない。

 以上のように、保育所を巡っては、待機児童問題や深刻な保育士不足、さらには低すぎる保育士の配置基準の問題など、喫緊の課題が山積している。当会は、子どもの人権を保障し、親の就労権を支える、という観点から、喫緊の課題である待機児童の解消と、保育の質の確保、向上を強く求めるものである。


                   2019年(平成31年)3月4日    

                      愛知県弁護士会

                          会 長  木 下 芳 宣