本日、名古屋高等裁判所刑事第1部(山口裕之裁判長)は、いわゆる豊川事件につき、田邉雅樹氏の再審請求を棄却する旨決定した(以下「本決定」という。)。

 豊川事件は、2002年(平成14年)7月、愛知県豊川市内で発生した幼児誘拐殺人事件である。田邉氏は、捜査段階では自白したが、公判においては一貫して無実を訴え、2006年(平成18年)1月、名古屋地方裁判所は田邉氏に対し無罪判決を言い渡した。しかし、検察官が控訴し、2007年(平成19年)7月、名古屋高等裁判所は逆転有罪判決(以下「確定判決」という。)を言い渡し、2008年(平成20年)9月の上告棄却決定によって懲役17年の刑が確定した。しかし、多数の当会会員が弁護人となり、田邉氏は、2016年(平成28年)7月、再審を請求した。

 本件の特徴は、田邉氏の捜査段階の自白以外にめぼしい証拠が存在しないという点にある。しかも、捜査段階では令状にもとづかずに宿泊を伴う長時間の取調べがなされており、自白の内容は合理性を欠き、客観的事実と整合しない部分が多く認められるところである。

 再審請求審において、弁護団は、開示された事件当時の海流データから逆漂流予測を検討して漂流経路に関する矛盾を示す意見書、車両座席シートなどに乗車した痕跡が認められないことを示す繊維付着実験鑑定書など、自白が客観的事実と矛盾することを示す多くの新証拠を提出した。あわせて、新証拠に関する証人の尋問を請求した。これらの新証拠は、確定判決に合理的な疑いを生じさせることは明らかであった。

 しかし、本決定は、確定判決を無批判に追認し、新証拠を真摯に検討することなく、本文わずか9ページで再審請求を棄却した。本決定は、無辜の不処罰という再審の制度趣旨とかけ離れた不当決定であり、当会はこれに対し強く抗議する。

 当会は、引き続き豊川事件の再審を支援し、無罪判決の獲得に向け、あらゆる努力を惜しまないことを表明する。


                   2019年(平成31年)1月25日    

                      愛知県弁護士会

                          会 長  木 下 芳 宣