本日、最高裁判所第二小法廷は、転居届記載情報に関する弁護士法23条の2に基づく弁護士会照会への報告義務の確認請求について、弁護士会の確認の利益を認めた名古屋高等裁判所の判決を破棄して、訴えを却下する旨の判決を言い渡した。もっとも、その判決理由中には、弁護士会照会制度は、弁護士の職務の公共性に鑑み、公務所のみならず広く公私の団体に対して広範な事項の報告を求めることができるものとして設けられたことを認めている。

 本件は、詐欺の被害者が加害者との間で裁判上の和解をしたものの、その後加害者が所在不明となったことから、強制執行のために転居届に記載された新住所等についてなした弁護士会照会に対し、日本郵便株式会社(以下「日本郵便」という。)が通信の秘密あるいは信書の秘密を理由に報告を拒絶した事案である。国民の信頼に足る司法制度の維持のためには、民事裁判が実効的なものでなければならず、裁判で認められた権利の実現のためには債務者の居所を知ることが不可欠である。ところが、本件の加害者のように債務者の中には、権利者からの強制執行を免れるために、住民票上の住所を移さず所在不明とする者も存在する。このような不誠実な債務者であっても、通常、郵便局には転居届を提出しているため、転居届に記載された新住所等は債務者の居所を知る上で重要な情報源である。転居届記載の新住所等について弁護士会照会をしても報告が得られないことは、国民の権利の実現を妨げ、司法に対する国民の信頼を失わせるものである。そこで、当会は、転居届記載の新住所等について弁護士会照会への報告を一律拒絶し続けている日本郵便に対して訴訟を提起したものである。

 本日の判決は、確認の利益がないとして訴えを却下したものではあるが、日本郵便の当会に対する報告義務そのものを否定したものではない。最高裁平成27年(受)第1036号同28年10月18日第三小法廷判決は、「23条照会を受けた公務所又は公私の団体は、正当な理由がない限り、照会された事項について報告をすべきものと解される」と判示しているのであって、本日の判決は、上記判断を否定するものではなく、上記判断には何ら影響はない。平成28年最高裁判決が、正当な理由がない限り報告をすべきものと解されると判示していることは、弁護士会照会制度の公共性が極めて高いことを示すものである。

 当会は、今後も弁護士会照会の実効性維持に力を尽くし、弁護士会照会を利用することによって得られる国民の利益を擁護するべく、積極的に活動を続ける所存である。

  

                   2018年(平成30年)12月21日    

                      愛知県弁護士会

                          会 長  木 下 芳 宣