東京医科大学が本年8月7日に発表した内部調査結果の内容によれば、同大学においては、少なくとも2006年度以降の入学試験で女性の受験生を一律に減点して意図的に女性の合格者数を抑制していたとのことです。その背景としては、結婚や出産を踏まえ、「女性は年齢を重ねると医師としてのアクティビティが下がる」との考えのもと、卒業生が就職する系列病院で出産・育児にあたって女性医師が多く退職する等の事情があるため、女性入学者割合を制限する意図があったものとされています。

 しかしながら、このような意図は、男女が互いにその人権を尊重しつつ責任も分かち合い、性別にかかわりなく、その個性と能力を十分に発揮することができる男女共同参画社会の実現を推進しようとする男女共同参画推進基本法の理念に真っ向から反するものです。このような意図にもとづき実施されてきた上記入試制度は、性別による差別を禁止して法の下の平等を定めた憲法第14条の趣旨及び教育上の性別による差別の禁止を定めた教育基本法第4条(旧第3条)に違反するものです。これは、実際に入試をうけた女性受験生への重大な人権侵害にあたるとともに、入学した男性学生への信頼を害する人権侵害でもあります。また、医学部の入試制度に対する社会全体の信頼を害するものです。

 そもそも、「系列病院で出産・育児にあたって女性医師が多く退職する」ことへの対処は、当該医療現場での人員増員や、男女を問わず、ライフイベントや家庭に関わる活動との両立支援を充実させるなどの支援により行うべきです。他の医療現場では、そのような努力が続けられている例もあります。

 また、同大学医学科は「入学者受け入れの方針(アドミッションポリシー)」を定めて公開していますが、上記の女性の受験生を一律に減点する入試制度に関する記載はありません。これは、同大学の入試制度に対する信頼を損なうとともに、医学部の入試制度に対する受験生全体の信頼を害するものです。

 日本国は、1985年に「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」(女性差別撤廃条約)を批准しました。同条約第10条は、教育を受ける権利における差別撤廃を規定し、締約国は「あらゆる種類の教育施設における」「修学の機会」のための同一の条件を確保するための適当な措置を採るものとされているところ、上記入試制度はこの条約の趣旨に反するものです。大学には学問の自由や大学の自治がありますので、これらに配慮しつつ、日本国は、同条約にもとづく適当な措置を採る必要があると考えます。

 これらを踏まえ、当会は次のとおり意見を述べます。

(1)東京医科大学を含む医学部医学科をもつ各大学は、属性による差別、教育の機会均等に反する不公正な入学試験、卒業認定その他の不正行為を行っていないか、改めて実態を厳格に自ら調査し、属性による差別等の問題点があれば、すみやかに事実を公表し、不利益を受けた受験生等の被害救済措置をとり、2019年度入試以降の実効的な再発防止策を採るべきである。

(2)文部科学省は、上記(1)の各大学における措置が十全に行われているか否かを改めて確認し、差別撤廃と教育の機会均等、不公正な入学選抜によって不利益を受けた受験生の被害救済や再発防止が十分確保されるように適切な措置を採るべきである。

(3)厚生労働省及び内閣府は、今回の問題の背景となった女性医師の出産・育児時の職場環境のあり方や、医師の家庭生活と職業生活の両立のあり方について改めて抜本的に調査検討し、各診療科における医師の男女の適正な配置、両立のための環境整備その他の観点から、医師が性別により就職等において差別されず、男女ともに個性と能力を十分に発揮して働き続けることのできる職場環境への改善のために適切な措置を採るべきである。

  

                   2018年(平成30年)8月27日    

                      愛知県弁護士会

                          会 長  木 下 芳 宣