当会は、中央最低賃金審議会及び愛知地方最低賃金審議会に対し、早急に、最低賃金額を大幅に引き上げて、最低でも時給1000円以上の金額を答申することを求める。


1 中央最低賃金審議会は、本年7月ころ、厚生労働大臣に対し平成30年度地域別最低賃金額改定の目安について答申する予定である。昨年、同審議会は全国加重平均で25円の引上げ(全国加重平均848円)の答申をし、これに基づき愛知地方最低賃金審議会でも最低賃金を26円引き上げるとの答申がなされ、愛知県の最低賃金額は871円となった。


2 しかし、最低賃金額である871円ではフルタイム(1日8時間、週40時間)で働いたとしても、月173時間として、月収で15万0683円、年収でも約181万円にしかならない。この収入では、労働者が賃金だけで自らの生活を維持し、将来のための貯蓄をしていくことは到底不可能であり、最低賃金法第1条が目的として掲げる「労働者の生活の安定」にはほど遠い状況である。

 我が国の相対的貧困率は15.6パーセント(平成27年)と依然高い水準にあり、貧困線は年収122万円のままで変動がない。貧困と格差の拡大は女性や若者に限らず、全世代で深刻化している。働いているにもかかわらず、貧困状態にある者の多くは、非正規雇用労働者として最低賃金付近での労働を余儀なくされており、最低賃金の低さが貧困状態からの脱出を阻む大きな要因となっているといわざるをえない。

 先進諸外国と比較しても、フランスの最低賃金は9.76ユーロ(約1201円)、イギリスの最低賃金は7.20ポンド(25歳以上。約1039円)、ドイツの最低賃金は8.84ユーロ(約1088円)であり(2017年1月1日現在)、日本円に換算するといずれも1000円を超えており、アメリカでも15ドル(約1755円)への引上げを決めたニューヨーク州やカリフォルニア州をはじめ最低賃金を大幅に引き上げる動きが各地に広がっている(円換算は2017年1月1日の為替レートで計算)のに対し、日本の最低賃金は著しく低いままである。


3 政府は、2010年(平成22年)6月18日に閣議決定された「新成長戦略」において、 2020年(平成32年)までに最低賃金を「全国最低800円、全国平均1000円」にするという目標を明記した。ところが、2016年(平成28年)6月2日に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」は、最低賃金を毎年3%程度引き上げ、将来は全国加重平均1000円程度にする方針を示しており、上記最低賃金の現状にこの方針をあてはめると、最低賃金額が1000円に達するのは2023年ということになり、後退している。

 当会は、昨年度も、会長声明で最低賃金の大幅な引上げを求めたが、2017年度(平成29年度)は2016年度(平成28年度)と比べて約3%の引上げにすぎず(845円から871円への引上げ)、このペースでは最低賃金が1000円に達するのは2022年である。

 しかし、時給1000円であっても、フルタイム(1日8時間、週40時間)で働いたとしても年収は約208万円であり、単身者世帯にとってすら最低限度の生活を維持するのに十分な額といえないことからすれば、最低賃金1000円の達成は最低限の目標であり、この達成にこれから5年を要するというのでは遅きに失すると言わざるを得ない。


4 なお、最低賃金の大幅な引上げによる企業経営への影響、特に中小企業の経営への影響についての配慮は別途考慮されるべきである。例えば社会保険料の減免措置や補助金制度等の構築、中小企業の生産性を高めるための施策や減税措置、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律や下請代金支払遅延等防止法の積極的な運用などである。


5 以上の理由から、中央最低賃金審議会及び愛知地方最低賃金審議会に対し、早急に、最低賃金額を大幅に引き上げて、最低でも時給1000円以上の金額を答申することを求める。

                      2018年(平成30年)6月15日

                         愛知県弁護士会        

                             会 長 木 下 芳 宣