本日、東京拘置所等において、いわゆるオウム真理教事件に関する死刑確定者7名に対して死刑が執行された。今回の死刑執行は、上川陽子法務大臣が昨年8月に就任してから、2回目の執行である。2012年12月に第2次安倍内閣となってから、これまで合計21名の執行がなされていたところ、これで合計28名の死刑執行がなされたことになる。
今回の死刑被執行者のうち1名は、心神喪失の疑いのある死刑確定者であり、同人については、日本弁護士連合会における人権救済申立事件において、「長期拘禁による拘禁反応としての重篤な精神障害に罹患していると思われる」との判断がなされており、刑事訴訟法で禁止されている、心神喪失の状態にある死刑確定者についての死刑執行であった可能性がある。また、今回の死刑被執行者のうちの多くは、再審請求中であった。
当会を含めた多数の弁護士会及び日本弁護士連合会は、昨年12月19日の死刑執行の際にも、これに対し抗議する声明を発表し、死刑執行を停止するよう求めた。それにも関わらず、上川法務大臣が本日の死刑執行を命じたこと、かつ、上記のとおり心神喪失の状態にある死刑確定者への執行であること及び再審請求中の者への執行であることは極めて遺憾であり、当会は、今回の死刑執行に対し、強く政府に抗議する。
死刑は、かけがえのない生命を奪う非人道的な刑罰であり、死刑の廃止は国際的な趨勢である。2016年12月末現在、死刑を廃止又は停止している国は141か国に及び、世界の中で3分の2以上を占めている。そして、OECD(経済協力開発機構)加盟国35か国のうちでも、死刑を残置しているのは、日本、米国、韓国の3か国だけであるが、韓国は事実上の死刑廃止国であり、米国も多くの州で死刑廃止ないし死刑の執行停止が宣言されており、死刑を国家として統一的に執行しているのは、日本だけである。
2016年12月に国連総会は死刑存置国に対する死刑執行停止を求める決議を加盟国193か国のうち117か国の賛成により採択した。従前より、日本政府は、国連自由権規約委員会や拷問禁止委員会などから、死刑執行を停止し、死刑廃止を前向きに検討するべきであるなどの勧告を繰り返し受け続けている。
判決には常に誤判の恐れがつきまとうところであり、日本においては、これまでにも4件の死刑確定事件についての再審無罪が確定している。誤って死刑が執行されればそれは二度と取り返しのつかないことであり、絶対に回避されなければならないことである。その後取り消されてはいるが、2014年3月27日には、静岡地方裁判所でいわゆる袴田事件の再審決定がなされ、死刑判決の再審請求という重大な裁判においても、裁判所において結論が分かれることも経験したところである。また、同日、袴田巌氏が48年ぶりに釈放されたことは記憶に新しい。死刑確定者として死の恐怖と隣り合わせで長年拘束を受けてきた袴田氏が拘置所を出たときの姿は、私たちの脳裏に焼き付いており、その後の報道等を通じて、拘禁反応の実態も明らかになっている。私たちは、えん罪の恐ろしさを通じて、死刑制度の問題についても学んだところである。また、死刑冤罪には、死刑か無期懲役かという量刑判断の誤判のおそれもあり、再審中の死刑確定者については、その防御権が尽くされたと言えるのかとの疑問も残る。
こうした死刑制度の重大な問題性や国際的な死刑廃止への潮流に鑑み、日本弁護士連合会においても、2016年10月7日に開催された人権擁護大会において、死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言(いわゆる福井宣言)を採択し、その中で2020年までに死刑制度の廃止を目指すべきであると宣言した。
当会としても死刑制度の廃止に向けて議論を深めるために行動することを決意し、改めて、死刑廃止を含む刑罰制度全体の改革を求め、それが実現するまでの間、死刑に関する情報を国民に公開し、死刑執行の停止を求め続けることをここに改めて表明するものである。
2018年(平成30年)7月6日
愛知県弁護士会
会 長 木 下 芳 宣