政府は、第196回通常国会に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」第1条の労働基準法の一部を改正する条項において、「高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務」につき、労働基準法の定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定の適用を除外する条項(労働基準法第41条の2、以下「高度プロフェッショナル制度」という)を創設する法律案を提出している。

 当初は、①企画業務型裁量労働制の拡大と②高度プロフェッショナル制度の創設を含む法律案の提出が予定されていた。ところが、①企画業務型裁量労働制の拡大について、「厚生労働省の調査によれば、裁量労働制で働く者の労働時間の長さは、平均的な者で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもある」との説明で正当化してきたデータが不正確なものであることが判明し、今通常国会においては、答弁を撤回し、①企画業務型裁量労働制の拡大は法律案から削除された。しかしながら、政府が不正確であることを認めた上記データは、高度プロフェッショナル制度導入の根拠としても利用されていたものである。根拠資料の不正確性が明確になった以上、労働時間規制を全面的に排斥する高度プロフェッショナル制度を創設する立法事実、正当化の根拠は、疑わしい状況となっている。

 当会は、本年2月、日本弁護士連合会、中部弁護士会連合会との共催により労働シンポジウム「真の『働き方改革』─実効性ある長時間労働の是正のためにー」を開催した。同シンポジウムでは、事業場外みなし労働制が適用されており労災事故によって命を失った方の家族から「私たちと同じ苦しみを背負う人が今後二度と現れないことを切に願っております」との悲痛な訴えがなされた。そして、基調講演、パネルディスカッションを通じて、労働時間規制を適用しないことにより、無限定な労働に対する法的な歯止めが失われた場合には労働者の命や健康に重大な影響を及ぼすおそれがあるという問題点が指摘された。

 高度プロフェッショナル制度は、労働基準法の定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しないとするもので、長時間労働を助長しかねない内容を含むものであり、労働者の命と健康の保持の視点からすれば、これを法制化すべきでない。一旦、長時間労働によって労働者の命や健康が失われれば、これを回復することはできないのである。

 当会は、高度プロフェッショナル制度の危険性を改めて指摘するとともに、同制度を創設する法律案を廃案にするよう強く求める。

2018年(平成30年)6月4日    

   愛知県弁護士会

       会 長  木 下 芳 宣