東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「本件事故」という。)による避難者等の被害者が国及び東京電力ホールディングス株式会社(以下「東京電力」という。)に対して損害賠償等を求める集団訴訟において、本年3月17日の前橋地裁判決、同9月22日の千葉地裁判決に引き続き、同10月10日、福島地方裁判所は、判決を言い渡した。

 上記各判決のうち、千葉地裁判決は、経済産業大臣が、遅くとも2006(平成18)年までに、福島第一原発の敷地高さを超える津波を予見することは可能であったと認定しながら、国の国家賠償法上の責任を否定した。

 他方、前橋地裁判決は、福島第一原発の敷地高さを超え非常用電源設備等の安全設備を浸水させる規模の津波の到来につき、2002(平成14)年7月31日から数ヶ月後には東京電力及び国に予見可能性があったとし、その上で国に結果回避措置を講じる旨の規制権限を行使すべきであったとして、国家賠償法上の責任を認めた。

 福島地裁判決も、2002(平成14)年に文部科学省の地震調査研究推進本部が作成した、いわゆる「長期評価」に基づいて想定される津波は、当時の技術基準に照らして安全性評価の対象とされるべきであり、直ちにこれに基づくシミュレーションを行っていれば福島第一原発の敷地高さを超える津波が襲来する可能性を予見できたとした上で、国が同年末までに規制権限を適切に行使し非常用電源設備の水密化等の安全確保対策を東電に命じていれば、本件事故は回避可能であったとして、国家賠償法上の責任を認めた。

 このように、上記各判決がいずれも本件事故より相当前の時点で国が福島第一原発の敷地高さを超える津波を予見することは可能であったと認定したこと、前橋地裁判決及び福島地裁判決が国の国家賠償法上の責任を認めたことは、被害者の被害回復に対する国の関わり方に再考を促し、更には国の原子力安全規制のあり方にも警鐘を鳴らすものと評価できる。

 また、上記各判決はいずれも、本件事故から避難せざるをえなかった住民の救済の範囲につき、原子力損害賠償紛争審査会の策定した「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」等の賠償基準にとらわれず、かつ避難指示区域以外からの避難者(いわゆる「区域外避難者」)についても一定範囲で避難の合理性を肯定し東京電力の損害賠償義務を認めた。もっとも、上記各判決の判断においても、個別の原告についての被害及び賠償額の認定においては、十分に被害の実態が考慮されているか疑問があり、特に「区域外避難者」については、十分な被害の賠償とは認め難い。

 当会は、昨年12月14日の「区域外避難者の借り上げ住宅供与打ち切りに反対する会長声明」において、国に対し、区域外避難者の実情に応じた適切な支援、とりわけ恒久的な住宅支援策を講じることを求めた。しかしながら、国による避難者に対する支援の現状は、本年3月末の福島県による区域外避難者への無償住宅の提供の打ち切り後もそれに代わる十分な住宅支援策が講じられておらず、「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」(いわゆる原発事故子ども・被災者支援法)による支援は有名無実化するなど、国としての責務が十分に果たされているとは言い難い状況にある。愛知県内へ避難をされている方は、本年12月1日の時点で、福島県から579人、福島県以外から380人であるが、上記状況は、避難者に対し、経済的な困窮、望まない帰還を強いるものと言わざるを得ない。

 このような中、上記各判決が避難指示等対象区域の内外を問わず避難することの合理性を認めたこと、前橋地裁判決及び福島地裁判決が本件事故の発生について国に法的責任を認めたことは注目すべき点である。このことを踏まえ、当会は、改めて、国及び避難者を受け入れている自治体に対し、司法判断を真摯に受けとめ、本件事故による全ての避難者の実情や生活実態に応じた生活再建支援や継続的な経済支援のための立法措置など、避難者への適切かつ実質的な救済策を講じるよう強く求める。 

                      2017年(平成29年)12月26日

                         愛知県弁護士会        

                             会 長 池 田 桂 子