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「愛知県スクールロイヤー設置事業」元年
~学校から相談を受ける立場に就いて~

子どもの事件の現場から(211)
「愛知県スクールロイヤー設置事業」元年
~学校から相談を受ける立場に就いて~

会報「SOPHIA」令和3年2月号より

子どもの権利委員会 委員 竹 内 景 子

1 愛知県のスクールロイヤーとは

 令和2年6月から愛知県において「スクールロイヤー設置事業」が始まっています。いじめ、不登校、虐待、保護者とのトラブル等学校現場での様々な問題に対して、法務に関する専門的知見を取り入れ、深刻化する前に、相談・支援により教員の負担軽減を図りつつ、児童生徒の最善の利益を保護することを目的とするものです。

 県内に5つある教育事務所(尾張、海部、知多、西三河及び東三河)に、それぞれ規模に応じて複数の弁護士がスクールロイヤーとして配置され、私もその一人です。

 具体的には、①随時ある学校からの法務相談への対応(電話または面接)、②法務に関わる教職員研修の実施、③教育事務所に出向いて学校や各市町村教育委員会からの相談を受ける巡回相談を行っています。

2 県スクールロイヤーの立ち位置

 これまで学校問題について、主に子どもの側から関わってきた私としては、学校や教育委員会からの相談を受ける立場に就くことについて、迷いがなかったわけではありません。一方で、弁護士が学校の外から子どもの権利侵害について対応を求める場合、対立構造になりやすいためか、学校との間で「子どもにとって最も良い方法は何か」を建設的に話し合うことが難しく、もどかしさも感じていました。

 この点、県は、スクールロイヤーに相談する際の心得として、学校の顧問弁護士ではないこと、学校の代理人となって保護者と対峙するなど対外的な活動を行うものではないこと、あくまで学校と保護者に対して中立の立場で、児童生徒の最善の利益を保護する目的で、学校が行うべき法律上適切な対応について指導・助言を行うものであることを理解するよう求めています。

 弁護士が、学校と問題点を共有し、学校に直接子どもの権利擁護に資する対応を促すことができる点に、私自身、県スクールロイヤーとしてのやりがいと可能性を感じているところです。

3 実際に学校からの相談を受けてみて

 県スクールロイヤーへの相談対象事案は、「生徒指導上の諸課題全般」です。学校側の法的助言に対する実際のニーズは、もっと広いように感じていますが、児童生徒の最善の利益の保護を図るという目的からすると、対象の限定は必要であると考えています。

 事業開始から約9か月間で、私が学校から受けた相談ケースは、いじめ、不登校、学校事故、児童虐待、校則問題、貧困問題等実に様々です。そのほとんどが、やはり保護者対応に学校現場が苦慮しているケースでした。困難ケースではなるべく学校に赴き、校長先生や教頭先生に加え、担任や学年主任、生徒指導担当等子どもや保護者と直接関わっている先生方からも広く話を聞くようにしていますが、肝心の子どもの姿が浮かび上がってこず、子どもが大人同士の対立の中で置き去りにされがちだと感じます。

 困っている子どもの存在に学校が改めて気づくことが、その子どもにとっての最善の利益を保護する第一歩になります。学校と子ども、保護者の関わりはこの先も続くことから、スクールロイヤーとして問題を整理し助言する際には、子どもを中心にして、先生方だけでなく、保護者も含め関係する大人に何ができるかを考えるよう心がけています。

 子どもの成長発達を支援する一員として、専門職である県スクールロイヤーを学校現場で活用していただけるよう、今後も精一杯務めていきたいと思います。