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オンラインブラジルセミナー ~コロナ禍の現状と親族法のTips~

会報「SOPHIA」令和3年 1月号より

国際委員会 委 員  浅 野 康 平

令和2年11月9日、国際委員会は表題のセミナーをブラジル国サンパウロ市とZoomでつないで開催した。
前半は私がコロナ禍におけるブラジルの状況報告及び私が専務理事を務める国外就労者情報援護センター(CIATE)を紹介した。
後半はサンパウロ大学教授であり、CIATEの理事長でもある二宮正人弁護士がブラジルにおける離婚法を紹介した。

1.コロナ禍におけるブラジルでの死者数
 本セミナーが行われた11月9日時点で、ブラジルでの新型コロナウイルスによる死者は162,628人(なお、我が国では1,828人)と多く、また私が執務するサンパウロ州では不要不急の経済活動を制限する外出自粛令が発出されている。
しかし、基本的に明るいブラジル人の気質からか、いたるところでハグが行われ、居酒屋では大勢が歓談しており、既に街中はコロナ禍前の状況と変わらない。

 もっとも、ブラジルでの感染者及び死者が多いのはこのような国民性とは関係がない。
 現地在住の日本人が言うには、日本人はアメリカ大統領と遜色ない医療が受けられる。それは日本では皆保険制度が機能しているからである。

一方、ブラジルはそうではない。
自身で選んだあるいは入れた保険の内容により受けられる治療が変わる。
ブラジルの医療は遅れていると思われがちだが、全く異なる。
サンパウロ市内には世界病院ランキングで日本の有名国立大学病院より上位の病院があるし、そういった病院の設備は高級ホテルのようである。
 つまり、よい保険に入っている者は最高の医療を受けられる一方、そうでない者(その数は多い)は、不十分な医療しか受けられない。
こういった医療体制の違いが、死者が多い一因であると思われる。

2.ブラジルでの離婚法
 ブラジル法はカトリックの影響が強く、1822年の独立後に制定された家族法にもその影響が強かった。
当初、ひとたび婚姻すると、婚姻無効ないし別居の判決を得るしか別れる方法がなかった。
つまり、基本的には神の前で誓った婚姻を解消することはできなかったのである。

 そして1977年にやっと離婚制度が認められたが、初婚者の離婚は可能である一方、再婚者の場合は離婚できないという不十分な制度であった(この初婚再婚で区別する法令は、のちに違憲と判断されることになる)。
 裁判所も、離婚法制定当初は、離婚に消極的で、規定を厳格に適用し、離婚を安易に認めない方向で対処していた。離婚手続は必ず裁判によるものとし、当事者両名の出頭が求められ、判事から離婚の意思を何度も確認されていた。
 そうすると、日本にいる出稼ぎ労働者の場合、本人は国外にいるので、手続が停滞するなど、様々な不都合が生じた。

 現在では、国外居住者の離婚訴訟が急増したことにより、手続を頑なに順守することが困難になり、サンパウロ州高等裁判所は指針を発し、以後は委任状を携えた一方、または双方の代理人によって手続が行われ、手続は大いに簡素化されている。
 なお、現在では未成年の子どもがおらず、当事者名義の不動産が存在しない場合は、裁判所で離婚手続を行う必要がなくなり、ブラジルにおける身分登記所のみで離婚手続が可能となり、在外総領事館で離婚が可能である。