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「子どもの権利」が繋げてくれた親子との再会

子どもの事件の現場から(210)
「子どもの権利」が繋げてくれた親子との再会

会報「SOPHIA」令和3年 1月号より

会 員  間 宮 静 香

「先生!〇〇です。Aの母です!」
 子どもに関わる職業の方たちに、子どもの権利について講演を行い、帰ろうとしているところで突然声をかけられた。名前はすぐにピンと来た。もう10年近く前に担当した少年の名前。事件後も何年間か相談にのるなど関わった子だ。それなりにたくさん少年事件を受けてきたけれど、忘れられない子のひとり。
 「うわー!!〇〇さん!お久しぶりですね!Aくん元気ですか?」

「元気で仕事頑張ってます。ちゃんとお父さんもしてますよ。職場で講演会のチラシを見ていたら、先生の名前があったので、これは行かなきゃ!って、同僚を誘ってきたんです。Aにも今日聞きに行くよって言ってあります。お話を聞いている間、昔のことを思い出して、もう感無量で・・・。あのとき、先生に仕事をやめようかと言ったら、仕事が支えになることもあるからやめない方がいいって言われました。だから、今も続けられています。あのとき、仕事をやめなくて良かった。」

Aくんのお母さんは、子どもに関わる仕事をしていたが、大切に育ててきた息子が非行を繰り返すようになり、私が初めて会った頃は、仕事をやめようかと真剣に悩んでいた。しかし、再会したお母さんは、なんと一つの組織のトップになっていた。話をしながら、当時のことを思い出して、ふたりとも目頭が熱くなる。

数日後、「私の職場でもぜひ子どもの権利について講演をしてください」とお母さんから事務所に連絡が入った。
 その後届いたメールには、大人になったAくんとAくんの子どもの写真。
 Aくんと長く交際していた彼女の間に、若くして子どもができたときも、心配するご両親の相談にのった。「あのふたりが産むって言っているなら大丈夫、信じましょうよ」と伝えた。その時の子どもが、笑っている。もうこんなに大きいなんて。

お母さんの職場での研修の日。なんと、Aくんが忙しい仕事の合間にわざわざ会いに来てくれた。「母さんの職場に来るの初めて」と照れながら。
 懐かしいAくんの顔。でも、仕事着を着た彼は落ち着いた大人の雰囲気になっていた。
「名刺ちょうだいよ」と言ったら、すっと立ち上がって、名刺入れを持って、社会人として名刺交換をしてくれた。肩書付の名刺。まさか、彼と名刺交換する日がくるとは。
 「こんな姿初めて見た」と見ながら横で涙ぐむお母さん。成績も良かったのに、働くことを選んだAくん。
 「あのときは、どれだけ言われてもわからなかったけど、今、学歴ないのキツイ。だから、今、資格の勉強してるよ」と、穏やかな顔。本当に良かった。

ご両親にとっては、出口の見えないトンネルの中のような日々だったと思う。それでも、なんとかAくんを信じたいと、当時のAくんには届かないようにみえる愛情を注いでいた。だからこそ、今のAくんがある。Aくんの姿が、人は支えられて、信じられて、やり直していくことができる存在なんだ、変わることができる存在なんだと教えてくれる。

子どもの力を信じる。子どもは、大人よりずっとずっと力をもっている。今日も、子どもたちの姿から教えてもらうことばかり。子どもの権利を守るって、きっとそういうこと。