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「優生手術被害一時金申請電話相談会」開催される

会報「SOPHIA」令和2年12月号より

高齢者・障害者総合支援センター運営委員会 委員 篠  塚   渉 

1 はじめに
 去る11月11日、優生手術被害一時金申請電話相談会が開催されました。


2 我が国の優生手術
 我が国の優生保護法(1948年制定)においては、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」(旧優生保護法1条)ことを目的として、①一定の要件のもと、都道府県優生保護審査会の審査を経て、本人の同意なく実施される「強制優生手術」(同4条)、②非遺伝性の「精神病又は精神薄弱者」に対して保護者の同意と上記審査会の審査を経て、本人の同意なく行われる手術(同12条)及び③本人、配偶者、一定の血族に遺伝性精神病等がある場合に、本人及び配偶者の同意によって行われる「任意の優生手術」(同3条)が予定され、手術は、生殖腺を除去しない方法で行うものとされていました。
 また、近年、上記の法に基づいた手術だけでなく、強制、欺罔、結婚や施設入退所の条件とする事実上の強制等法律上根拠なく手術が行われてきたこと、子宮摘出、睾丸摘出、放射線照射等法律上認められない方法での手術が行われてきた実態が明らかになりました。
 国は、現在に至るまで責任を認めておらず、全国各地で国賠訴訟が提起されています。


3 一時金支給制度について
 2019年4月、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」が議員立法で成立し、優生手術被害者への一時金支給制度が実現しました。
 本法は、その名の通り、旧優生保護法に基づく手術による被害者を救済対象としつつ、上記の実態に鑑み、法に基づく手術であることが明らかでない場合も救済対象としました。
 また、制度の特徴として、手続書類が簡素化され、請求後の調査は各都道府県が行うこと、審査会資料や当時のカルテが存在しない場合も支給対象とすること、認定された場合には一律320万円を支給する(非課税かつ生活保護法上の収入にも認定されない)ことが挙げられます(請求の期限は令和6年4月23日)。
 申請書類等は、厚生労働省や愛知県のWebページ等で広報されていますが、優生手術の被害者として想定される世代が独力で申請するハードルは相当に高いのが現実です。


4 本電話相談会について
 このような状況のもと、本電話相談会は、当委員会の第3部会で企画され、相談員向けの事前勉強会を経て、行われました。
 一時金申請に焦点を当てた相談会は、当会では初の試みです。
 当日は、10名の相談員が、新型コロナウイルス感染防止策を徹底した弁護士会館内の会議室に交代で待機し、電話相談を受け、必要に応じ、継続相談につなぐ体制を取りました。
 対象者世代の情報アクセスが限定されていることや、優生手術に関する問題が極めてセンシティブであることから、相談の電話が1件も無い事態も想定されました。しかし、当日は、1件の電話相談が継続相談につながり、意義ある相談会となりました。


5 おわりに
 我が国の優生手術に関しては、国や地方自治体も優生手術の件数等の正確な実態把握が出来ておらず、被害者の救済も思うように進んでいないという実情があります。
 本相談会が、被害者救済の一助となったことを願うとともに、今後の被害者救済へつながることを望みます。