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「よりそい弁護士制度」レポート(6)
よりそい弁護士をやってみました
「よりそい弁護士制度」レポート(6)
よりそい弁護士をやってみました
会報「SOPHIA」令和7年2月号より
会員(元裁判官) 伊 藤 納
1 事案の概要
20代男性によるコンビニでの連続万引事件の国選弁護。派遣の仕事をさぼり収入が絶え、金に困って商品を万引し換金。
遠方から出てきて身寄りがない。親に反対されて出てきたため、お金に困っても相談できなかった。同意を得て私から連絡したら、被害弁償までは協力してくれ、全部示談ができた。解雇されて、派遣会社のアパートは退去。私が立会い、荷物を引き取った。初犯だが同種前歴があったため、求公判となった。
2 公判準備
今後もこちらで暮らすことを希望。本人は派遣会社でアパート付きの仕事を探せばいいと考えていたが、釈放直後の住居がネック。元の派遣会社から、釈放時に仕事があれば紹介すると言ってくれたが不確実。本人には、頑張って正社員を目指したいとの気持ちがあることも分かった。だんだんと私一人では手に余る気がしてきて相談した杉本みさ紀会員から、そんな時こそよりそい弁護士を、と誘われ、接見への同席と、関係機関との調整に動いてくれることになった。
3 よりそい弁護士
最初の問題は、連携先を法務省の更生保護ルートでいくか、市役所の福祉のルートでいくか。更生保護には、就職先を探すのにメリットがあるが、集団生活・規律に耐えないといけない。市役所は逆。接見を繰り返す中で、集団生活は合わないだろうと考え、市役所を選択し、福祉の担当者と連絡を取った。担当者は意向確認等のため面接をしたいが警察署は一般面会でという。それでは受付が朝1回・先着順で不確実。そこで留置管理係と交渉し、弁護人接見の始めの15分間だけだったが市担当者が同席することができ、三人で話し合えたため、本人の表情も明るかった。
4 公判と判決後
公判では、今後の立ち直りは、市役所の福祉担当者と連携して進めており、弁護人は判決後もよりそい弁護士として杉本弁護士と共同して関与し、本人にはそれを受け入れて立ち直る意欲がある旨を訴えた。
判決は、懲役2年猶予4年(猶予4年には疑問が残るが、よりそい弁護士に言及)。
昼食を二人で軽く済ませ、市役所に行くと担当者が笑顔で待ってくれていた(途中から
杉本会員も同席)。担当者からは、今日から近くのマンションの1室が使える、運営上鍵は渡せないが外出時は市役所に顔を出してくれれば職員が施錠に行く、職探しには協力するなど熱心に分かりやすく話してくれた。本人は解放されて自由になったためか、正社員になりたいことなど自分から話したり、面接での服装等を質問したりし、接見では見られなかった若者らしい元気な表情に、いつの間にかなっており、嬉しい発見だった。
数日後、派遣会社経由で勤め先が決まり、会社の車で引っ越していった。その後は連絡をすれば短いメールで返事がある程度だが、弁護士はだんだんと後景に下がり、その時々の周囲の人々を頼り相談するようになってほしいので、それでよかったと思う。
5 感想
判決後に元弁護人個人ではなく、弁護士会のよりそい弁護士と名乗れることは、福祉等関係機関と連携する活動の上で、関係者へのインパクトが違うと感じた。杉本会員ほか制度の運営に関与されている方々に感謝と敬意を表し、制度のさらなる発展を祈りたい。