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連載 弁護士とプロボノ活動(4) Living Together 誰もが自分らしく生きられる社会を

会報「SOPHIA」令和3年7月号より

会報編集委員会

 民法及び戸籍法の規定が同性愛者に対し婚姻の法的効果の一部すら与えていないことは憲法14条1項に違反するとした札幌地裁の判決や、各自治体におけるパートナーシップ制度の創設など、LGBT問題について社会が大きく動こうとしています。今回は、東海地域にてLGBTの相談支援活動を行うNPO法人PROUD LIFEでLGBT問題について熱心に活動されている岡村晴美会員(写真右)、堀江哲史会員(写真左)にお話を伺ってきました。

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■最近「LGBT」という言葉を日常的に耳にするようになっていますが、「LGBT」にはどのような意味があるのでしょうか。
堀江  LGBTはレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字を取った言葉で、性的少数者の総称として使われていますが、性的少数者といっても、LGBT以外にも様々なセクシュアリティがあります。そのため最近は「SOGI(ソジ)」(Sexual Orientation and Gender Identity)という言葉を使うことが多くなりました。
■LGBTの方の割合は左利きの人の割合と同じくらいという話を聞いたことがあって、思っていたより多いんだなと感じたことがあるのですが。
堀江  調査では、全体の約5%くらいと言われています。日本人の名字で多い、佐藤、鈴木、高橋の合計が全体の約5%です。皆さん、知り合いに佐藤さん、鈴木さん、高橋さんがいない方はいないと思いますので、それくらい身近な問題なんだと考えていただければと思います。
■岡村さんは2015年のPROUD LIFE設立時からのメンバーなんですね。当時からLGBT問題に関わっておられたのですか。
岡村  いいえ、当時は全くLGBT問題に関わったことがありませんでした。PROUD LIFEの代表理事を務める安間優希さんから声を掛けてもらってNPOの設立に関与することになりました。優希さんは性別に違和感を覚え、社会人になってから自身が性同一性障害であることを自覚されたという方で、性自認は女性ですが、知り合った当時は、身体的性と同じ男性として生活していました。その後しばらくしてから、私がパネリストとして参加した講演会で「わかりますか?」と声を掛けられ、その方が優希さんでした。
■声を掛けられたときは、優希さんは女性として生活をしていたのですか。
岡村  そうです。女性として生活を始めた優希さんにお会いするのは初めてだったので、驚きましたが、知り合った当時から、優希さんの性自認が女性であることは知っていましたので、ホッとしたことも覚えています。当時は、まだ東海地域にLGBTの相談ができる機関がなく、優希さんは、「この地域の規模で相談機関がないのは絶対におかしい。LGBTの相談ができるNPO法人を設立したいので協力して欲しい」と私に声をかけてくれたのです。私は当時からDVやセクハラ事件を多く扱っており「女性らしさ」の押しつけに対する拒否感があり、一方でLGBT問題は「女性らしさ」や「男性らしさ」をむしろアピールする印象があったことや、自分はLGBT問題の当事者ではないことから、私以外にもっと適任者がいるのではないかとお伝えしました。しかし、優希さんから、「愛知は、全国的にも保守的な地域なので、LGBTの当事者の弁護士がいたとしても、公言しにくいと思います。これから一緒に勉強していきましょう」と言ってもらい、思い切ってお引き受けすることにしたのです。その後、全国組織であるLGBT支援法律家ネットワークに登録して、PROUD LIFEの設立、活動に関わりました。
■PROUD LIFEではどのような活動をしているのでしょうか。
岡村  LGBTの相談支援をしています。相談員向けの研修や勉強会をしたり、行政作成のパンフレット監修等も行っています。現状、PROUD LIFEでは理事をしていますが、ここに限らず、様々なLGBT問題への取組に参加している状態です。支援を必要とするすべてのLGBTの方を孤立させないことが大切であり、そのために様々な分野の方と連携をとって活動しています。
■堀江さんがこの問題に取り組むこととなったきっかけは何ですか。 
堀江  私は学生時代に、友人から自分は同性愛者だと告白された経験がありました。当時、私は、その友人に対して今思えばあり得ない対応を取ってしまい、そのことがずっと心のどこかに引っかかっていました。そのような経緯もあって、修習に入る前からLGBTの勉強会に参加し、弁護士としてこのLGBT問題を支援することができることを知りました。東京で修習中に、ちょうど、単位会主催のLGBTのシンポジウムがあって、LGBT問題に熱心に取り組んでいる山下敏雅弁護士(東京)ともお話しする機会があり、さらにこの問題に関わっていきたいと思うようになりました。
岡村  堀江さんが活躍されているという噂は事前に聞いておりましたので、愛知県弁護士会に登録後、是非一緒に活動して欲しいとお声掛けしてPROUD LIFEの理事にもなってもらいました。
■弁護士としてLGBT問題に関わるとは具体的にどのような活動になるのでしょうか。
岡村  もちろん同性同士の婚姻を求める同性婚訴訟や、同性同士のパートナーを犯罪被害者遺族として認めることを求める犯罪被害者等給付金訴訟等の裁判もありますが、借金問題等の弁護士にとって一般的な法律相談についても、LGBTフレンドリーの弁護士でないと、二次被害を受けるのではないかと相談者が身構えてしまい、弁護士へのアクセス障害があるのが現状です。LGBTに理解のある弁護士として一般的な法律相談に対応することも活動の一つです。
堀江  私もLGBTフレンドリーな弁護士として認識されており、ご紹介を受けて一般的な事件の相談を受けることがよくあります。
■堀江さんは「結婚の自由をすべての人に」訴訟の代理人もされているとのことですが、3月17日付の札幌地裁での画期的な判決についてどう思われますか。
堀江  札幌ではLGBT問題に熱心な取組があり、札幌市は政令指定都市で最初に同性のパートナー関係を公的に承認するパートナーシップ制度を導入しています。違憲だと認めてもらえた点は画期的なのですが、この問題は、法改正までいかないと意味がないと思っています。毎年、栄の池田公園で開催される「NLGR+」というLGBTの祭典にPROUD LIFEも参加するのですが、このお祭りの中で東京訴訟の原告の方の同性婚の結婚式を行ったことがありました。私もその結婚式に参列して、当事者の幸せそうな顔や感動した気持ちを今でも覚えています。そのカップルの一方の方は、既に亡くなってしまったのですが、亡くなる前に正式な婚姻関係にできなかったことが悔しいです。この裁判では、活動のため一般社団法人が設立されており、行政や社会に働きかけるキャンペーンも行っています。なんとか法改正につなげたいと思っています。
■堀江さんは日弁連のLGBTに関するプロジェクトチームにも所属されているそうですが、どのような活動をされていますか。
堀江  年に1回、全国規模で意見交換会を開催しています。また、各単位会に対して、弁護士向け研修の講師派遣等も行っています。このプロジェクトチームは両性の平等委員会の中に位置づけられているのですが、個人的には、LGBT固有の問題という捉え方をするのではなく、例えば刑事処遇、子ども、憲法、労働等様々な分野にまたがる横断的な問題なので、弁護士会全体として取り組むべき問題だと感じています。
岡村  愛知県はこの問題について非常に後れている地域です。当会もより関心をもって会全体として取り組むべきですね。
■会報子の場合、LGBTの方を相手とする法律相談等では、傷つけていないか、失礼がないかと、緊張してしまうのですが。
岡村  私は、SOGIの問題、つまり自分の性自認や性指向に関する問題はすべての人にかかわる問題であると思っています。多様性とはグラデーションだと思うのです。誰もが自認する性に基づいて自分らしい生き方をすればよいと。そう考えると身構える必要もないのかなと思います。
堀江  性自認、性指向は誰にでもありますから、私も自分を非当事者と思うこと自体が間違っていると気づきました。この問題は当事者ではない人はいないのです。
 これまでの日本はこの問題について不可視だったと思います。ようやく可視化されて、社会問題となってきたので、もっと議論をしていけばよいですし、社会の意識が変わり、もっとニュートラルになればよいと思います。
■この問題に取り組むやりがいについて教えてください。
岡村  性的な問題は人権の根幹に関わる難しい問題ですが、そこで悩み考えたことは全ての業務に生きてきます。私自身、世の中の多数派に属しているわけではないと思っていて、そういう自分だからこそできることがあると思っています。また、新しい問題ですので全国の弁護士と協力して進めることはとても勉強になります。犯罪被害者等給付金訴訟でも、全国の多くの弁護士に協力してもらっています。
堀江  性同一性障害者の方が女性から男性へ戸籍上の性別の取扱いを変更した後に婚姻した夫婦間の子について、夫が、子の法律上の父親になることを認めた最高裁決定で制度が変わったように、新しい問題であるからこそ、新しい制度の創設に関わることができるという点は非常にやりがいがあります。またパレードやイベントも多く明るく楽しく活動しています。    
■PROUD LIFEの今後の活動目標等はありますか。
岡村  相談業務や2か月に1度開催している勉強会等は軌道に乗ってきていますので、今後は行政への働きかけについて、より力を入れていきたいと思っています。社会への啓蒙や教育については行政の仕事だと思っています。まだ名古屋市ではパートナーシップ制度がありません。政令指定都市のうち、16市はすでにパートナーシップ制度を導入しています。既に意見書の提出や陳情を行っていますが、早期実現のため更に活動をしていきたいと思っています。
■この問題に関心のある方々へ向けてメッセージをお願いします。
岡村  興味をもっていただければ是非一緒に活動に参加していただきたいです。お気軽にお声がけください。
堀江  パレードやイベントだけでもご参加いただけると嬉しいです。
「この問題は誰もが当事者なんだ」という言葉がとても印象的でした。誰もが自認する性に基づいて自分らしい生き方ができる社会を目指すべく、弁護士会として、また個々の弁護士が関心をもって取り組む必要性を感じました。

【NPO法人PROUD LIFEお問い合わせ先】
PROUD LIFE事務局 https://proudlife.org/about
080-2660-0526
npo758@proudlife.org

(写真)パレードに参加する(前列右から)山田麻登会員、岡村会員、堀江会員、矢崎暁子会員、(後列)倉知孝匡弁護士(岐阜)

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