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安心安全なSNSの利用環境の構築に向けて

中部経済新聞令和5年1月掲載

弁護士 平野 憲子

 情報通信技術の高度化や、スマートフォンの普及に伴い、SNS(ソーシャルネットワークサービス、Social Networking Service)が、幅広い年齢層、幅広いシーンで利用されるようになった。

 現在、LINEやInstagram、Twitter、Facebookなど、様々なSNSが登場し、広く普及している。SNSは、デジタル社会においては、生活に不可欠なツールとして社会インフラとなっており、友人・知人・学校・地域のコミュニケーションツールとして利用されるだけでなく、企業や組織の広報など、ビジネスシーンでの利用も増えている。

 SNSの中には、固定・携帯電話と同じように、音声などで通話できる機能を持つものや、電子メールと同じように、メッセージ機能やチャット機能、情報やファイルなどをやり取りできる機能を持つものがある。このため、電話やメールに代わるコミュニケーションツールとして、SNSが主に用いられるようになっており、人々の行動様式として、知り合った人との間で電話番号は聞かない、特に聞く必要も感じていないということが、一般的になってきている。

 SNSの普及により、人々の生活が便利になる一方で、SNSのみをコミュニケーションツールとする法的トラブルも増加の一途を辿っている。

 例えば、SNSで繋がった人との間で取引をしたが代金が払われない、お金を貸したが返済されない、児童がSNSを通じていじめや性被害に遭う、妊娠・出産したが交際相手が逃げた、SNSが詐欺やマルチ商法・情報商材などの消費者被害の勧誘に悪用されるなどのトラブルである。

 固定・携帯電話であれば、法律上、本人確認義務が規定されており、弁護士法に基づく調査をすれば、トラブルの相手方の特定に至ることも可能である。

 しかし、SNSについては、現状、本人確認義務が規定された法律はなく、SNS事業者自身によるサービス利用者の本人確認も不十分である。その上、SNS事業者が、弁護士法に基づく調査に対して、アカウントに紐づけされた電話番号など、利用者に関する情報を開示しない不適切な運用をしている場合には、トラブルの相手方を特定することは不可能である。このため、SNSの匿名性に目を付け、詐欺等のツールとしてSNSを悪用するケースが後を絶たない。

 被害者は、トラブルによる金銭的被害や、精神的苦痛だけでなく、SNS事業者の不適切な運用によって、更に苦しめられている。

 このような痛ましい事態を受けて、愛知県弁護士会は、令和4年5月17日、SNS事業者の本人確認義務の導入や、SNS事業者において、弁護士法に基づく調査に対して適切な対応をすべきことなどを内容とする意見書を発出した。

 SNS事業者は、社会のインフラを担う事業者の責任として、すべての利用者にとって安心・安全なSNSの利用環境を早急に整えるべきである。