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校則問題を通じて子どもの権利を考える~子どもの権利条約批准30周年の年に~

中部経済新聞令和5年2月掲載

愛知県弁護士会所属 弁護士 粕田陽子

数年前から人権侵害になりうる校則が耳目を集めています。愛知県弁護士会子どもの権利委員会も令和4年度から校則プロジェクトに取り組み、校則の分析、アンケート、シンポジウムなどを行ってきました。

過剰な校則が維持される原因は学校にあると捉えられがちですが、保護者が好ましくないと思う行為を校則で禁止してほしいと学校に要望したり、地域住民が制服の着こなしを指導するよう学校に連絡したりなど、保護者や地域住民も要因となっていることがあります。そこで、校則が何のために必要なのかを教職員、子どもだけでなく、保護者や地域の人も考える必要があるでしょう。また、その前提に「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利について平等である」こと(世界人権宣言1条)を再認識する必要があります。私たちの人権を制限する場合には、国民の代表である国会議員が議論をして法律を作らねばならないのと同様に、子どもも基本的人権の主体ですから、子どもの権利が制限される場合には子どもの意見を聞くことが必要です。子どもの権利条約12条は、子どもは自分に関わることについて自由に意見を述べ、その意見は年齢や成熟度に従って尊重されなければならないとしています。文部科学省も令和4年12月の生徒指導提要改訂で、子どもの権利の理解が必要不可欠であるとし、校則の見直しに子どもが参画することに教育的な意義があるとしました。

令和4年の日本財団による18歳意識調査では「自分の行動で国や社会を変えられると思う」と答えたのは、日本ではわずか26.9%で6か国中、目立って低い割合でした。校則プロジェクトでも高校生から「何をしてしまうか分からないからルールは必要」「どうせ言っても校則は変わらない」という意見が聞かれました。子どもたちの自信のなさが表れているといえます。この状況を変えるためには、子どもたちから自信を奪い取ってきた社会が変わる必要があるでしょう。

18歳になると自動的に選挙権を行使できる資質が身につくわけではありません。子どもは成長に見合った大きさのコミュニティで意見を表明し、それが尊重される経験を積むことで、意見を言うと状況が変わることを学びます。失敗しないよう先回りしてルールで縛るのではなく、試行錯誤を繰り返すことへの支援が成長発達権の保障に欠かせません。校則改定もこの一過程となります。学校が多様な子どもにとって安心して安全に学べる場になるためにはどのようなルールが必要なのか、子どもたちが意見を出し合い見直していく作業を、教職員、保護者、地域の方々が支援するプロセス自体が教育的な効果を持ち、「子どもの権利」が社会に根付いていく機会になるでしょう。

令和6年は子どもの権利条約批准から30周年、こども基本法施行1周年、こども大綱取組み元年です。子どもが権利の主体であるという認識がますます社会に浸透していく年になるよう、私たち弁護士も取り組んでいきます。