愛知県弁護士会トップページ> 愛知県弁護士会とは > ライブラリー > 寄附不当勧誘防止法の制定

寄附不当勧誘防止法の制定

中部経済新聞令和5年2月掲載

愛知県弁護士会 竹之内 智哉

 情報通信技術の高度化や、スマートフォンの普及に伴い、SNS(ソーシャルネットワークサービス、Social Networking Service)が、幅広い年齢層、幅広いシーンで利用されるようになった。

 法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律(寄附不当勧誘防止法)が、令和5年1月5日に施行された。同日、消費者契約法なども関係する条文が改正されている。

 寄附不当勧誘禁止法は、いわゆる破壊的カルト教団などによる信者などへの寄附の勧誘が、家庭崩壊、人生の破壊を招き社会問題となったことから法人などからの寄附の勧誘を受ける者の保護を図る目的で制定された。

 寄附不当勧誘防止法は、霊感などによる知見を用い不安をあおり、または不安をいだいていることに乗じて、その重大な不利益を回避するためには、寄附をすることが必要不可欠であることを告げて寄附の勧誘を受ける個人を困惑させて寄附の意思表示をさせた場合、などに寄附を取り消すことができる規定を設けた(4条、8条)。

 勧誘を受けた個人が寄附をするか否かについて適切な判断をすることが困難な状態に陥ることがないようにするよう配慮義務も設けた(3条)。

 子や配偶者が養育費・婚姻費用などを保全するため債権者代位権の行使に関する特例を設けた(10条)。

 しかし、破壊的カルトに入信した後、いわゆるマインド・コントロール下で献金を繰り返した場合に、個々の献金は当初のマインド・コントロールの影響のもとで行われていると考えられるため、個々の献金が霊感などによる知見を用いた告知によって行われ寄附者を困惑させたという要件に該当し取り消すことができるのか明らかではなく、救済することができるのか不透明である。

 寄附の勧誘を行うにあたっての寄附者への配慮義務について、違反した場合に6条で勧告することができるが、勧告があった場合に返金の実施を勧告することが困難であるのは不十分である。

 債権者代位権の特則については、養育費や婚姻費用の返還に限定されている。家族は養育費や婚姻費用分だけではなく寄附自体を代位行使したいと考えるのが通常であり家族の希望と乖離がある。

 一方、多額の寄附によって家庭崩壊などが起きていることが社会問題化してから迅速に法律が制定されたことは評価される。今後、寄附不当勧誘防止法によって被害者が救済されることを期待したい。