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PFI刑務所の更なる活用を
中部経済新聞令和6年12月掲載
弁護士 永井康之
今年の11月29日に愛知県弁護士会は山口県の美祢(みね)社会復帰促進センターを訪問し、見学しました。
美祢は全国に4か所あるPFI(民間手法活用型)刑務所のひとつで、平成19年4月に運用が開始されました。これまでに私が見学した他の刑事施設に比べ、綺麗で管理が行き届いていました。受刑者はセンター生と呼ばれ、表情は穏やかでした。職員の離職率も低く、他の刑事施設と比較して職務の環境も良いとのことでした。面会の際にセンター生は、扉を開閉するカードキーを借り、単独で移動します。仕切りのない面会室が複数あって、実際の面会に使用されているそうです。周辺はフェンスで囲まれ、センサーが設置されています。他の刑務所のような壁はありませんが、運用開始以来事故は発生していません。食事は房内でも、共用スペースに置かれたテーブルでもできます。
ほとんどのセンター生が仮釈放で出所し、再犯率も全国平均に比べて低くなっています。出所したセンター生が民間企業の幹部になって、センター生のリクルーティングに訪れたこともあるそうです。センター生が施設外でパンを販売し、購入客と交流する機会もあるとのことでした。
PFI刑務所は平成13年に名古屋刑務所で消防用ホースによる放水で受刑者を死亡させ、平成14年に革手錠で受刑者を負傷させる事件が起きたことを契機に導入されました。美祢では多くの業務を民間事業者が受託し、施設内に民間の目が入ることが、不適切な処遇の防止につながっているそうです。
令和4年に再び名古屋刑務所の刑務官の受刑者に対する暴行や不適切な処遇が明らかになりました。この問題を受けた改革の一貫として、法務省は今年の4月に受刑者を「さん」付けで呼ぶことにしました。美祢では開設当初から女子センター生に対する「さん」付けを行っていて、昨年12月に男子センター生の「さん」付けをはじめたそうです。
女子刑務所の過剰収容に対応するため、美祢は平成23年に建物を増設し、収容定員は男子500人、女子796人の合計1296人です。しかし、実際の収容人員は男子174人、女子237人の合計411人にとどまります。収容者の数が少ないため、増設した建物は収容に利用していません。刑事施設の収容率は毎年低下し、令和5年の犯罪白書によれば、全国の刑務所の収容率は53パーセントです。美祢の収容率は全国の刑務所の収容率を大きく下回っています。
美祢のような先進的な施設が十分に活用されていないのは残念です。PFI刑務所の入所条件を緩和し、既存の施設を十分に活用して刑務所の改革が進むことを希望します。