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カスタマーハラスメント

中部経済新聞令和6年6月掲載

民事介入暴力対策委員会委員長 平田浩一

 顧客からの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の迷惑行為、いわゆる「カスタマーハラスメント」という言葉が、不当要求対策を専門に取り扱う弁護士だけでなく、広く一般にも浸透してきました。

 厚生労働省が令和2年10月に実施した調査では、過去3年間にカスタマーハラスメントの相談があった企業の割合が19.5%、過去3年間に勤務先でカスタマーハラスメントを一度でも経験した者の割合は15.0%であり、カスタマーハラスメントは、企業経営を行う事業者にとって重要なテーマの1つであると言えます。

 労働環境におけるハラスメント行為としてのセクシャルハラスメント、パワーハラスメントについては、事業主に対してこれを防止する措置を講じる義務が定められ(男女雇用機会均等法11条、労働施策総合推進法30条の2)、カスタマーハラスメントについても「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号」において、雇用管理上の配慮の取組を行うことが望ましい旨が示されています。

 カスタマーハラスメントの対策につきましては、厚生労働省が作成したマニュアルを含めて様々な書籍がありますので詳細はそれらに譲りますが、最も重要なのは、カスタマーハラスメントへの事前準備です。カスタマーハラスメントは担当者に不安感や恐怖感を与えるものであり、対応基準を設けないままで担当者、担当部署のみに対応を委ねることは、不当な要求に応じる危険性だけでなく、就業環境を悪化させ担当者の心身に悪影響を与えることになりかねません。

 そこで、代表取締役等の経営トップがカスタマーハラスメントへの基本方針、対応基準を明確に打ち出し、それを社内外に宣言し、宣言を実現するための社内体制の整備、従業員の安全確保、警察や弁護士等外部専門機関との連携等の取組を行うことが不可欠です。

 過去、顧客からの電話での苦情への対応について、その際の音声を顧客にインターネット上で公開されたことで大きな社会問題となり、苦情対応を行った企業が大きな批判にさらされることもありました。一方で、カスタマーハラスメントへの企業としての対応を理由に労働者の職場環境が害され、企業の安全配慮義務違反が認められた場合、カスタマーハラスメントへの対応を余儀なくされた労働者から企業に対して損害賠償請求を受ける可能性もあります。そのようなことがないようカスタマーハラスメントへの理解と対策を進めていただければと思います。