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環境問題と弁護士
中部経済新聞令和6年5月掲載
弁護士 藤川誠二
全国各地で弁護士は環境問題に取り組んでいます。環境問題といってもさまざまで、弁護士の関わり方は多岐に渡ります。ここでは公害問題から続く、環境の保全に関わる弁護士の取り組みについて、紹介したいと思います。
弁護士が本格的に公害・環境問題に取り組むようになったのは、高度経済成長期に全国各地で発生した、深刻な公害による被害者救済への取り組みからでした。四大公害訴訟が提起されたのは1967~69年にかけてでした。愛知県弁護士会の公害対策委員会(現在は公害対策・環境保全委員会)の発足は1971年で、50年以上の歴史があります。当時、公害は大きな社会問題でした。
1980年代に入ると、工場などの固定発生源の排出規制と対策が進められたことから、それまでのような、深刻な大気汚染や水質汚染・汚濁を中心とした被害は、目立たなくなりました。
しかし、汚染物質の排出はなくなったわけではなく、低濃度のものが広く拡散した形となり、深刻な目に見える「公害」被害から、見えにくい「環境」の悪化へと問題が移っていきました。弁護士の取り組みも、被害救済から環境の保全に変化していきました。そして、社会の発展や都市化などに伴い、さまざまな環境問題が生じていきました。
環境基本法では、環境を健全で恵み豊かなものとして維持することが、人間の健康で文化的な生活に欠くことのできないものである、と位置づけています。また、環境権は、一般的な定義では、環境を破壊から守り、健全で恵み豊かな環境を享受する権利である、としています。
弁護士の使命は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することにあります。環境の保全に取り組むことは、人々の健康と暮らしに密接に関連する、生活の基盤そのものを守ることであり、これはまさに弁護士の使命といえるのです。
近年は、世界各国で気候訴訟と呼ばれる、気候変動に関するさまざまな問題を争点とする訴訟が、多数提起されており、日本においても裁判が行われています。気候訴訟のような地球温暖化問題も、私たちの健康や生活基盤に対する脅威であることから、弁護士が取り組む環境問題です。日弁連も、地球温暖化問題や、それに関連するエネルギー問題について、積極的に意見を述べるなどしています。
公害や環境問題は、社会の負の側面でもあります。社会の変化や科学の発展に伴い発生する、という背景があります。例えば、鉄道・車社会の発展は、騒音や大気汚染を引き起こしました。また、都市の広がりや、余暇の過ごし方の変化によるリゾート開発などは、自然の破壊・改変を引き起こしました。さまざまな環境問題に、弁護士は常に最前線で立ち向かってきました。
人間活動の広がりや大規模化は、環境問題を深刻化させる、根本的な原因と指摘されています。今の地球温暖化による気候危機や、生物多様性の急速な喪失は、人間活動が地球環境全体にまで、影響を与えるに至ったことの証拠です。
環境問題が人々の生活に関わるものである以上、弁護士はその使命からして、常に関わり続けていくといえます。社会が続く限り、その負の側面はなくならないのだろうか、と思うところですが、いつかそうでなくなることを、切に願うばかりです。