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不公平な再審制度
中部経済新聞令和6年4月掲載
弁護士 後藤昌弘
いわゆる袴田事件の再審手続において、先日検察側及び弁護側の各証人の尋問が行われました。再審請求審では、事件から1年以上後に味噌タンクの中から発見された血の付いた5点の衣類について、発見された当時赤みが残っていた点が不自然であるとして再審開始が認められています。今回の再審手続においては、味噌タンクに1年以上漬けられていた血痕に本当に赤みが残らないのか否か、この点に関して証人尋問が行われたようです。
この赤みが残るか否かの点については、再審請求審でさんざん検察側も反論してきたところであり、再審の審理の中でまた同じ争点を繰り返すのか、との思いを抱かざるを得ませんが、再審が裁判のやり直しである点を考えれば、この行為自体を批判することはできません。ただ、再審の審理でこうした点について証人尋問まで行って審理がされるとすれば、再審をするかどうかを決める再審請求審で検察側に反論や抗告の権利を認める必要があるのか、という点ではやはり疑問を抱かざるを得ません。
この点は、今年の1月29日に再審請求の抗告が棄却された名張の毒ぶどう酒事件でもいえるところです。今回の毒ぶどう酒事件の再審請求では、毒入りのぶどう酒に取り付けられた封緘紙に当時使われていた糊と別の糊が検出されたとの鑑定意見書が信用できるか否かが争点となりました。そして5人の裁判官の内1人はこの鑑定意見を信用できるとしたものの、4人の裁判官が「ATR法による鑑定により本件封緘紙に付着した物質を特定し、本件封緘紙が本件ぶどう酒への毒物混入後再度糊付けされた可能性を示そうとすること自体、相当に困難であるといわざるを得ない。」などと判示し、信用できないと判断して抗告が棄却されたものです。
しかし、再審請求の段階では、証拠物に影響を与える分析は認められません。今回の再審請求審でも直接封緘紙に付着した物質を分析することができないため、赤外光を照射して封緘紙から反射してくる光を測定して対比しています。こうしたハンディキャップを負わされた状態での分析である以上、一定の限界はあるはずです。しかしそれでも裁判官の1人は信用性を認めているのです。
もともと刑事裁判の目的は被告人の権利擁護のためにあるものです。この被告人について本当に処罰を与えてよいのか、この点を慎重に判断させるために刑事裁判の手続が定められているはずなのです。この理屈は再審請求においても適用されるべきものです。であるとすれば、少なくとも1人の裁判官が再審開始を主張した以上、再審を開始し、そこできちんと分析すれば良いはずです。しかも毒ぶどう酒事件は何十年も前の事件です。今の技術であれば正確な科学的分析も可能なはずです。そもそも被告人・弁護人側と検察側では証拠収集能力などで大きな差があります。
この点で、検察側に再審請求審のみならず再審段階でも繰り返し反証の機会を与えていながら、再審の扉を閉ざし続ける現在の制度は、不公平というにとどまらず、刑事裁判の在り方の点からみても問題があると思わざるを得ないのです。