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小学生向け主権者教育企画「憲法とアリとキリギリス」

小学生・中学生・高校生のためのサマースクール2024
小学生向け主権者教育企画「憲法とアリとキリギリス」

会報「SOPHIA」令和6年8月号より

法教育委員会 主権者教育企画チーム 馬 場 琢 成

1 8月8日、小学生向け主権者教育企画「憲法とアリとキリギリス」を当会会館5階ホールにて開催しました。
 本企画は、参加児童に主権者教育チーム員の弁護士が演じる童話「アリとキリギリス」を題材にした劇を見てもらい、兵隊アリ、働きアリ、老人アリ、病気アリの間で意見が分かれる食料分配問題の意思決定に関する3つの設問をグループに分かれて検討し、グループ毎に検討の内容と結果を発表してもらいました。本年は、県外からの参加者も含め、昨年の参加者数を超える62名の小学5、6年生の児童が参加しました。

2 設問1は、アリの国に助けを求めたキリギリスを助けるべきか、アリたちの意見が分かれます。参加児童には、女王が決めることに賛成か反対か、賛成の場合にはその理由を、反対の場合には、他の方法について検討してもらいました。参加児童からは、話合いをしてそれぞれの意見に対する理解を深めた上で多数決により決めるという意見が多く出されました。
 設問2では、アリたちはキリギリスに食料を分けるかを多数決で決めることにしましたが、多数決にアリ全員が参加すべきか、それとも働いていない病気アリと老人アリを除く、一部のアリだけで決めるべきかで意見が分かれます。参加児童には、全員が参加すべきか、そうでない場合、どのアリが参加すべきなのかについて検討してもらいました。参加児童の結論は基本的に、全員が参加するのが良いというものでした。その理由としては、アリたちには皆に平等な権利があるべきという人権意識に根差した意見が述べられていました。少数意見として、決定事項につき強い利害関係を持つ働きアリや兵隊アリにより多い投票数を認めるという意見が出ました。参加児童が妥当な結論に至るためどうするべきかを考えた結果であり、参加児童の問いに真剣に向き合う姿勢を強く感じました。
 最後の設問3は、アリの国での食料の分配にまつわる問題です。20枚のパンを、働きアリ2名、兵隊アリ1名、老人アリ1名、病気アリ1名に分配しますが、多数決の結果病気アリに配られるパンは1枚だけとなります。病気アリは、これでは病気も治らないし死んでしまうと訴えます。本設問は、多数決により一部の少数派の人たちの人権を不当に侵害している場合、多数決の結果をそのまま採用してよいか、よくない場合にはどのように解決したらよいかを検討してもらいました。
 参加児童は、命にかかわる問題で少数派の不利益を無視してはいけないとの問題意識をしっかりもって議論を進めていました。そして、発表された検討結果の中には、生存に必要な数量を検討し、その数量を平等に分配した上で、余剰分を働きや体格等に見合うように分配するという、憲法の考え方につながる見解も発表されました。

3 全体を通じて、参加児童が活発に議論する姿が印象的でした。また、設問1の検討の段階で、多数決において少数派の意見が無視される可能性を指摘し、後の設問3の問題意識がこの段階で出されるなど、参加児童の問題点を見抜く鋭い指摘には大変驚かされました。本年のシナリオは深い問題意識を有するものでしたが、参加児童が見せた問題の本質にたどり着く力に感心するとともに、参加児童にとって本企画が大変有意義なものとなったことを確信できました。