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えん罪被害救済へ向けて~今こそ再審法の改正を~

シンポジウム第3分科会
えん罪被害救済へ向けて~今こそ再審法の改正を~

会報「SOPHIA」令和元年10月号より

死刑制度廃止委員会 委員 市 川 哲 宏

<はじめに>

 10月3日、徳島グランヴィリオホテルのグランヴィリオホールにて、第3分科会「えん罪被害救済へ向けて~今こそ再審法の改正を~」が開催されました。

<開会挨拶>

 まず、日本弁護士連合会の小池達哉副会長より、開会挨拶が述べられました。
 えん罪は国家による最大の人権侵害であり、再審はその救済の最終手段であること、その一方で、刑事訴訟法の中の再審法は、証拠開示について規程が無く裁判官の訴訟指揮に委ねなければならないこと、また、再審開始決定に対する検察官の不服申立てにより、請求人の不安定な状況が続き救済ができないこと、という問題点が端的に指摘されました。

<基調報告>

 次に、塚越豊弁護士(東京)より、基調報告がなされました。
 布川事件の弁護団員としての経験を踏まえながら、「再審格差」と呼ばれる裁判体間の証拠開示についての対応格差や、高裁の再審開始決定に対し検察官が特別抗告等の不服申立てをして審理を遅延させる問題について指摘されました。その上で、検察官に開示義務を課する規程の創設と再審開始決定に対する検察官上訴を否定する規程の創設を訴えました。そして、裁判所や法務省には期待できない現状を踏まえ、国民の声こそが重要であり、今こそ、声をあげて再審法改正への社会のうねりを作るべきと訴えました。

<第1部 基調対談とトークセッション>

 次に、「えん罪の撲滅へ向けて」と題して、ジャーナリストの江川紹子さんと、映画監督で脚本家の周防正行さんによる基調対談がなされました。ナビゲーターは、大崎事件弁護団事務局長である鴨志田祐美弁護士(鹿児島県)が担当しました。
 江川さんは、再審手続には時間がかかりすぎるという問題点を強調しました。えん罪について、服役した後だから(再審手続なんてしなくても)もういいじゃないかという話には決してならない重大な問題であること、一方で生涯をかけてえん罪を晴らす活動をしなければならない現状はおかしいこと、しかも裁判所に当たりはずれがあるという事実もおかしいことが指摘され、このような再審の現況は、そもそも日本の法制度として、果たして良いのかと強く疑問を呈されました。
 周防さんは、自身の映画監督の経験と、法制審議会の委員としての経験を踏まえて、日本の刑事司法とえん罪の問題点を指摘しました。法制審議会の委員の頃、ある裁判官に再審格差の問題を指摘したところ、その裁判官から、「それぞれの事件で証拠構造も違えば主張も違うため、各裁判官の頑張りに任せてほしい」と聞いたが、法治国家なのに、裁判官個人に任せろとはどういうことか、と疑問を呈されました。
 お二人とも、市民側から法曹界を見てきた立場から発言され、刑事司法とえん罪についての問題意識の深さが感じられました。
 次に、「えん罪被害と、その闘いを語る」と題する、えん罪被害に巻き込まれた当事者によるトークセッションが行われました。トークセッションには、東住吉事件の青木惠子さん、湖東事件の西山美香さん、布川事件の桜井昌司さん、足利事件の菅家利和さん、袴田事件の袴田巌さんの姉である袴田秀子さんが参加され、インタビュアーは森塚さやか弁護士(東京)が担当しました。
 皆さんの壮絶とも言うべき再審開始決定までの戦いの内容が詳らかに語られ、それぞれの担当警察官や検察官に対する怒りの言葉は会場の空気をピンと張り詰めさせるものでした。そして、えん罪を無くすためには何が必要かという問いかけに対し、青木さんは、自宅が火事になり自分の娘が亡くなったことをきっかけに自分が放火犯だとされた経験から、えん罪は誰の身にも起こること、そして証拠の偏在があり証拠開示が大事であること、再審法を変えるためにえん罪犠牲者の会の仲間たちで頑張りたいと訴えました。西山さんは、自身の発達障害と知的障害に触れ、供述弱者の虚偽自白の危険を指摘し、弁護士の取調べへの立会いと証拠の全面開示の必要性を訴えました。桜井さんは、えん罪は誰も幸せにせず、えん罪を作った警察官や検察官も、まじめにやってきた人ほど悔やんで不幸になるだろうと述べ、また、現在えん罪を減らすための法制度を作ろうとしているが、その議論の場に裁判所や検察庁等、これまでえん罪を作ってきた人を入れるのはおかしいのではないかとの考えを示しました。菅家さんは、日本の司法を変える必要があり、再審開始決定が出たら検察に邪魔されずに一回で決まる制度が必要だと訴えました。袴田さんは、えん罪は過去も現在も将来もあるだろうと指摘し、将来においてきちんと弁護人が戦うことができる制度が必要だと訴えました。

<第2部 パネルディスカッション>

 次に、「えん罪被害救済のための再審法改正に向けて」と題するパネルディスカッションが行われました。パネルディスカッションには、元裁判官である安原浩弁護士(兵庫県)、元検察官である市川寛弁護士(第二東京)、甲南大学法学部の笹倉香奈教授、龍谷大学法学部の斎藤司教授、名張事件や日野町事件、豊川事件等の再審事件弁護団員である当会の小林修会員、大阪弁護士会の弁護士でもある伊藤孝江参議院議員が参加され、コーディネーターは、再度、鴨志田弁護士が担当しました。
 安原弁護士は、日野町事件を裁判官として担当した経験を踏まえて、現在の裁判所間の再審格差の存在や大崎事件の最高裁の破棄自判による逆転再審請求棄却の問題点を指摘されました。市川弁護士は、検察官の経験から死刑事件や無期事件における検察庁での決裁の実情(検事正だけではなく高等検察庁の決裁も必要)が述べられ、死刑事件や無期事件の再審請求が認められるということは、地検と高検の沽券に関わる重大な問題であるという内部の実情を述べられました。
 笹倉教授と斎藤教授からは、それぞれイギリスやドイツの再審制度が紹介され、比較法的な立場から日本の現状の再審法の問題点が指摘されました。
 小林会員からは、再審事件の現状を踏まえながら、再審事件というものが特別なものではないことを市民に広める必要があること、少なくとも弁護士に理解してもらえる状況にしなければならないこと、そして国会議員に現状の問題点を把握してもらい、それにより現在の実務と立法をつなげる必要があることが訴えられました。
 伊藤議員は、国会議員の立場から、再審法の現状の問題点を把握し、立法によりこの問題を解決したいと発言されました。

<シンポジウムの総括と閉会>

 シンポジウム第3分科会実行委員会の西嶋勝彦委員長より、シンポジウムの総括がなされ、最後に、徳島弁護士会の綾野隆文副会長より、閉会の挨拶が述べられました。
 本シンポジウムにて、刑事再審手続において全面的証拠開示の規程を定めることと、検察官による不服申立ての禁止の規程を定める立法の重要性が強く浮き彫りになりました。