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日弁連人権擁護大会プレシンポジウム 「子どもの権利救済機関と国内人権機関」が開催されました!知っていますか、国内人権機関

会報「SOPHIA」 令和元年9月号より

人権擁護委員会 委員 後 藤 睦 恵

9月7日、当会会館5階ホールで、10月に開催される日弁連第62回人権擁護大会第2分科会のプレシンポジウムが行われました。第2分科会のテーマは、国際社会における人権保障システムである個人通報制度の導入と国内人権機関の設立の実現です。しかし、国内人権機関といっても馴染みのない方も多いため、会員及び一般の方に国内人権機関の必要性と各国の状況等をご理解いただくための企画を催しました。国内人権機関とは、公権力から独立した権限を有する人権救済機関ですが、今回は、子どもの人権に焦点をあて、子どもの権利条約に規定される子どもの権利実現のために設立された子どもの権利救済機関について講演をしていただきました。  冒頭、2019年度から子どもの権利救済機関として子どもの権利擁護委員制度を設置した河村たかし名古屋市長よりご挨拶があり、子どもの権利擁護の必要性について熱心に語られました。

【名古屋市の子どもの権利擁護委員について:間宮静香会員】  

 名古屋市の子どもの権利擁護委員制度は、子どもの最善の利益を確保し、子どもの権利が保障されるようにするための第三者機関です。今年3月に条例が成立し、9月1日、当会の間宮静香会員が権利擁護委員の1人として選任され、2020年1月から制度の運用が開始される予定です。名古屋市の子どもの権利擁護委員制度では、子どもに関わる相談を受け、権利擁護委員がケース会議を開催し、子どもの最善の利益を重視して、調査・調整を行い、是正措置・制度改善の勧告や要請、公表を行う制度設計になっていること、さらに進んで、是正措置・改善の状況報告を受けてから再調査・再調整が可能となる制度設計であることの説明がありました。子どもの人権実現のための今後の活動が注目されるところです。

【川西市の子どもの人権オンブズパーソン制度について:三木憲明オンブズパーソン(大阪弁護士会)】  

 兵庫県川西市の子どもの人権オンブズパーソン制度は今年で21年目となります。年間の相談・調整回数は約650件前後で推移しており、子ども1人当たりの相談・調整回数は、2018年は9.11回で、年々増加傾向にあるとのことでした。相談内容の傾向としては、制度導入初期に多かった教職員等の指導上の問題についての相談は減り、家庭生活・家族関係に関する相談等が増え、調整に時間を要するとのことでした。小学生から高校生になるまで長期間に亘り相談・調整を継続している事案もあるとのことでした。  川西市では、子どもの人権オンブズパーソンの認知率は高く、困ったことがあったら子どもの人権オンブズパーソンに相談すれば良いとの意識が子どもにも根付いているようでした。

【国内人権機関について:近藤剛日弁連国内人権機関実現委員会委員長(岡山弁護士会)】  

 2月、国連子どもの権利委員会は、日本に対し、「子どもによる苦情を子どもにやさしいやり方で受理し、調査しかつこれに対応することのできる、子どもの権利を監視するための具体的機構を含んだ、人権を監視するための独立した機構を迅速に設置するための措置」、「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)の全面的遵守が確保されるよう、資金、任務及び免責との関連を含めてこのような監視機関の独立を確保するための措置」等を講ずるよう勧告を行いました。  地方自治体においては、川西市の子どもの人権オンブズパーソンのように権利救済機関を設置しているところが34ありますが、1700以上ある自治体のほんの僅かに留まっており、国レベルで設置する必要があります。

人権擁護大会プレシンポ子どもの権利救済機関と国内人権機関.JPG

 国内人権機関について国際的に確立した定義はありませんが、(1)人権保障のため、機能する既存の国家機関とは別個の公的機関で、(2)憲法又は法律を設置根拠とし、(3)人権保障に関する法定された独立の権限を持ち、(4)いかなる外部勢力からも侵害されない独立性を持つ機関と考えられています。既に国連加盟国120か国以上で設置されており、独任制のオンブズパーソン型と委員会型に大別されます。国内人権機関が備えるべき要素として国連子どもの権利委員会も指摘しているのが、1993年国連総会で採択された「国内人権機関の地位に関する原則」(パリ原則)です。パリ原則では、①国内人権機関の機能と責任、②構成と独立性・多元性の保障、③活動方法、④準司法的権限についてあるべき姿が定められています。①機能と責任とは、政策提言機能、人権諸条約の国内実施の促進、国連人権関係機関等との協力等をいいます。②構成と独立性・多元性保障とは、国内人権機関の構成員の社会的多元性を反映するよう各分野の専門家等から選出すること、職務の独立性確保、独立した財政の保障等をいいます。③活動方法とは、人権侵害の申立ての検討、意見聴取・情報取得の権限、意見や勧告の公表権限をいい、④準司法的な権限とは、調停を通じた友好的な解決、救済手段に関する申立人への情報提供等をいいます。
 他国の状況を見るとよりイメージが持てます。
 韓国の国家人権委員会は、2001年に設立され、子ども、障がい者、人種差別、性差別等、テーマごとの小委員会を設置しています。人権救済の申立てがあると調査を行い、救済活動を行います。政策提言をした例として、韓国は徴兵制ですが、宗教上の理由により兵役を拒否する良心的兵役拒否者に対する罰則について代替措置の提案を行い、法改正に至っています。
 オーストラリアの人権委員会では、申立てを受理し、調査救済を行うために、調停手続が設けられています。申立人の要請があれば通訳者等を人権委員会の費用負担でつけることができます。人権救済を申し立てるのに費用は発生しません。人権委員会は、学校等への人権教育を実施し、人権教育用のツールの開発も行っています。特徴的なのは、公開調査の手法です。例として、先住民族アボリジニ及びトレス諸島民の子どもらを、家族から分離した件の調査があります。2年以上の調査によって、州政府が数十年にわたり、親からアボリジニの子どもらを強制的に引き離し、白人施設に収容したり、白人家庭の養子にしたりした実態が明らかとなりました。人権委員会は、報告書を公表し、54の勧告を出しました。オーストラリア政府は、子どもらに対し、公式に謝罪するに至りました。
 日本では、2009年に日弁連が要綱案を公表し、民主党政権下の2012年に人権委員会設置法案が国会に上程されましたが、その後衆議院の解散により廃案となり、国内人権機関を設置するに至っておりません。しかし、日本政府は、国連人権条約の実施機関からパリ原則に適合した国内人権機関の設置を繰り返し求められています。 

【最後に】

 プレシンポには一般市民の方々に多数ご参加いただき、国内人権機関を知っていただけたと思います。国内人権機関を知らない弁護士もいます。国内人権機関を知り、設置に向けて声を上げていくことが、日本の人権保障を担う弁護士の役割ではないでしょうか。