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~韓国及び日本におけるADR制度~

光州地方弁護士会との共同セミナー
~韓国及び日本におけるADR制度~

会報「SOPHIA」 令和元年11月号より

紛争解決センター運営委員会 委員長 堀  口   久

1.韓国光州地方弁護士会との親善交流
 光州地方弁護士会(以下、光州会)との親善交流は、2008年に始まり、今年で12年目になります。隔年で相互に訪問し合う方式で交流を行ってきており、今年は当会が光州を訪問する番です。
 この交流会は、当初は純粋に親善のための行事でしたが、2010年から、一つの法制度等をテーマに取り上げ、日韓双方の現状や課題を報告し、討議する共同セミナーを開催するようになりました。今年のテーマは、両国のADR制度です。その関係で、紛争解決センター運営委員会からも、国際ADR部会の田邊正紀部会長、青木有加・原さやか部会員(いずれも国際委員会にも所属)のほか、増田卓司委員と私が訪問団に加わりました。
2.光州到着とレセプション
 光州は朝鮮半島南部の主要都市ですが、日本からのアクセスにやや難があり、今回も仁川空港・ソウル経由での訪問となりました。
 11月3日にソウル入りした後、翌4日に服部千鶴副会長、青柳良則国際委員会委員長をはじめとする総勢16名の訪問団が韓国高速鉄道・光州松汀駅に到着すると、姜成斗国際委員長など多数の光州会の方が出迎えて下さいました。駅近くのお店で姜委員長主催の歓迎昼食会が開催され、この地方の名物料理であるトッカルビで歓待いただきました。
3.共同セミナーの開催
 午後は光州会の弁護士会館に移動し、日韓合わせて約50名の弁護士が出席して、共同セミナーを開催しました。
(1)光州地方弁護士会の報告
 まず、光州会の高惠珠弁護士が「韓国の刑事調停制度の実務及びその問題点」のテーマで報告をされました。
 刑事調停制度とは、詐欺、横領等の財産犯罪事件や、名誉毀損、医療紛争、賃金未払などの私的紛争に関する告訴事件等を対象としたADRであり、第三者が介在することで当事者を犯罪の以前の平穏な状態に戻すという修復的司法の実践であるとされます。

11月号 光州地方弁護士会①
 この制度が導入された背景には、韓国特有の事情があります。韓国では、告訴事件の急増により検察の業務量が増大し、その中には、民事事件型告訴事件と呼ばれるものが多く含まれていました。上記のとおり、刑事調停の対象事件には、日本であれば民事不介入として警察が取り合わないであろう紛争類型が含まれますが、韓国ではそれを門前払いしない(できない)ようです。このような事件でも、不起訴にすると、告訴人が抗告、再抗告、裁定申請、憲法訴願など様々な手段でこれを争おうとするため検察の負担が大きく、本来行うべき捜査に時間が割けなくなるという問題が生じるようになったことから、2006年4月から導入されたのがこの刑事調停制度です。
 刑事調停を担当する調停委員会は、各検察庁に設置され、弁護士、法学者、医師、会計士、事業家等の民間人3名で構成されます。調停手続は、当事者の出席→調停制度の説明→当事者の意見聴取→調停委員の協議→調停案の提示→当事者の合意という流れで進み、この過程は検事の介入なしに調停委員と当事者の自律によって行われるとされています。
 ただ、この手続は、1回の調停期日当たり30分程度で行われ、かつ、ほとんどの事件が1回の期日で終了しているとのことです。
 ここまでの説明を聞く限りでは、制度導入の経緯、調停に割かれる労力、対象となる紛争の類型等に照らして、こんな制度が紛争解決の機能を十全に果たせているはずがないという印象を持ちます。しかし、その認識は、統計資料を見て一変しました。
 検察庁の統計によれば、刑事調停事件は、2016年は上半期だけで59,691件の申立てがあり、そのうち60.1%で調停が成立したとされています。その上、調停で定めた示談金が全部履行された割合は8割を超えます。2014年中に刑事調停を通じて被害者が弁済を受けた示談金の総額は100億円前後と推計され、それだけの被害回復が約1.8億円の国家予算の投入で実現されたとされます。このため、この制度の有用性に対する国民の認識が拡がり、2011年は年間で17,517件だった申立件数が5年で約7倍に増加することとなりました。
 なぜこれだけ実効性のある紛争解決制度となっているのか、限られた報告時間と質疑応答時間の中では、残念ながら得心に至ることができませんでした。日本と異なり同席調停方式が採られるとはいえ、たった30分で対話促進型の調停が行えるとも思えません。調停に付すには両当事者の同意が必要であることや、調停不成立であってもそれを後の刑事手続で被疑者の不利に考慮できないことが「運営指針」によって定められているとのことですが、検察の権威ないし刑罰権を背景にした相当の強制的契機がなければ、極めて短時間の手続でこれだけの数・割合の示談を成立させることは到底不可能のように思えます。
 日本に同種の制度を導入して根付かせることができるかというと、かなり難しいのではないかという印象を受けました。
(2)愛知県弁護士会の報告
 当会からは、増田卓司会員が、日本のADR制度について、特に韓国にはない弁護士会ADRを中心に報告をしました。
 質疑では、弁護士会がADRの運営に当たるということで、主に運営コストの面に光州会の関心が集まりました。光州会の会員からは、手数料で運営するのであればその負担額は訴訟よりも大きくなるのではないか、手数料の確実な収納のためにどのような方策を採っているのかといった質問が相次ぎました。
4.歓迎晩餐会
 セミナー終了後は、ホテルに会場を移して歓迎晩餐会を催していただきました。

11月号 光州地方弁護士会②
 晩餐会には、光州会初の女性会長となられた林仙淑会長をはじめ、副会長、理事や歴代の会長など多数の会員が参加され、両会相互の記念品贈呈などを行い、美味しい光州料理を堪能しました。もちろん、1次会だけで終わるようなことはなく、2次会、3次会と、深夜に至るまで親善交流が続きました。
5.最後に
 今年は、日韓関係が最悪ともいえる情勢にある中での開催でしたが、それだけに、熱烈な歓迎のもとで大いに親交を深められたことは、非常に意義深いものでした。