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~知っておくと役立つ台湾の法律実務~

台湾でのインターンシップを通じて
~知っておくと役立つ台湾の法律実務~

会報「SOPHIA」 令和元年7月号より

国際委員会 委員 布留谷   望

1 はじめに

 5月19日から26日にかけて、台湾の台北にある寰瀛法律事務所で研修をさせていただきました。様々な施設を見学したり、法律相談に同席させていただいたりする中で、台湾の法制度や日本企業に向けたリーガルサービスについて勉強することができました。

2 施設見学の概要

(1)はじめに、台北高等裁判所民事部で訴訟を傍聴しました。台湾は、当事者主義の建前でありながら、裁判官が職権で証拠を集めることが多いそうです。そのため、裁判所内には職権で集めた証拠の閲覧室が用意されていました。台湾の裁判所は総じて書面や証拠の電子化の動きが進んでおり、証拠はすべてUSBで持ち帰ることもできます。

(2)次に、刑事捜査局において、捜査令状の発付申立てに同席しました。捜査をする中で事件や被害者に関する情報を集めるのが警察の仕事のようにも思えますが、台湾の警察は被害者からの告訴等に対し、情報不足を理由に捜査を開始しないことが非常に多いそうです。私が同席した申立ては、会社のパソコンに不正アクセスをして異常な取引を行った犯人の捜査を求めるものでしたが、アクセス履歴やパスワードを知り得る者のリスト等を提供してもなお、情報不足を理由に捜査を開始してもらえませんでした。

(3)また、公共工事委員会において、施工者と監査者の間の損害賠償に係る調停期日も傍聴しました。台湾においては、事件の内容を問わず、調停は両当事者が一堂に会する形で行われるとのことでした。そのため、いつも喧嘩になって話がまとまらないそうです。交互に話を聞く形にしないのは時間短縮のためとのことですが、喧嘩になるのであれば結局時間がかかるのではないかと感じます。

(4)台北の高等行政裁判所も見学することができました。行政裁判は、税務、知的財産、社会保険、公正取引の順に件数が多いそうです。行政裁判はほぼすべて定型的に敗訴とされることが多いようで、時間を持て余す裁判官のために、裁判所内の2つのフロアに運動場が設置されていました。

(5)台北弁護士会館も訪問させていただきましたが、台湾では裁判官・検察官に比して弁護士の地位が低く、弁護士会館は裁判所から車で20分以上かかる位置にありました。台湾では裁判所の管轄ごとに弁護士会にも支部があり、弁護士会に登録していない地域の裁判所では訴訟活動等をすることはできないそうです。また、今後は法科大学院の創設や裁判員裁判制度の開始に向けた動きが大きくなっていくそうで、注目されています。

(6)その他、中華民国仲裁協会や最高裁判所など数多くの施設を見学させていただき、盛りだくさんのスケジュールでした。

3 日本企業に向けた注意点

(1)労働法の観点からは、台湾ではストライキが非常に多いこと、管理職に就く者でも法律上残業代請求ができることに注意し、慎重な労務管理を行ってほしいとのことでした。

(2)会社法の観点からは、外国人投資許可(FIA)の許否に政治的影響があること、具体的には、中国系の会社と関連がある会社についてはより多くの資料を求められたり調査が厳しくなったりすることに留意してほしいとのことでした。

(3)刑法の観点からは、セクハラ行為が明確に刑事罰の対象であり、懲役10年となった例もあるので軽率な行動は控えるようにしてほしいとのことでした。