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憲法改正手続

特集 憲法改正問題を考える
憲法改正手続

会報「SOPHIA」 平成31年 1月号より

 会報編集委員会

 憲法改正手続は、国会が発議し、国民に提案してその承認を経ることによってなされますが、国民の承認を得る手続としての国民投票に関する手続を定める法律である「日本国憲法の改正手続に関する法律」が施行されています。
 この「日本国憲法の改正手続に関する法律」について、日弁連の指摘を参考に、各種の問題点を整理しました。

1 はじめに

 憲法改正については、個々の改正内容のみではなく、改正手続がどのように行われるかということも押さえなければ、適切な議論をすることができない。そこで、日本国憲法の改正手続に関する法律(以下「憲法改正手続法」)を中心に、憲法改正手続の流れとその問題点を取り上げる。

2 憲法改正手続

 憲法96条1項は、憲法改正手続として、国会の発議、国民の承認に係る投票(以下「国民投票」)を定め、国民投票に関する手続を定めるものとして、平成22年5月18日に憲法改正手続法が施行された。
 これにより、現行法では、日本国憲法の改正は、以下の手続により行われることとなる。

① 憲法改正原案の発議

 議員が発議する場合は、衆議院においては議員100人以上、参議院においては議員50人以上の賛成を要し(国会法68条の2)、内容において関連する事項ごとに区分して行われる(同法68条の3)。
 また、憲法審査会も憲法改正原案を発議することができる。

② 憲法改正の発議

 各議院にて、それぞれ憲法審査会の審査を経て、本会議において可決する。決議要件は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成であり(憲法96条1項)、国会における最後の可決をもって、国会が憲法改正の発議をし、国民に提案したものとされる(国会法68条の5)。

③ 国民投票

 国会が憲法改正を発議した日から起算して60日以後180日以内において、国会が議決した日に行う(憲法改正手続法2条1項)。
 投票権者は、満18歳以上の日本国民であり(同法3条)、在外邦人にも投票権は認められ(同法62条)、いわゆる公民権停止を受けた者も除外されていない。
 投票は、国民投票に係る憲法改正案ごとに、一人一票に限られ(同法47条)、投票用紙に印刷された賛成の文字又は反対の文字を囲んで○の記号を自書し(同法57条1項)、無記名で行われる(同条2項)。

④ 国民投票の効果

 憲法改正案に対する賛成の投票の数が投票総数(憲法改正案に対する賛成の投票の数及び反対の投票の数を合計した数をいう)の二分の一を超えた場合は、当該憲法改正について憲法96条1項の国民の承認があったものとされる(憲法改正手続法126条1項)。

3 憲法改正手続法上の問題点

 日弁連は、平成21年11月18日付「憲法改正手続法の見直しを求める意見書」において、次の事項を見直すことを求めており、とりわけ、平成30年6月27日付会長声明では、テレビ、ラジオの有料意見広告規制及び最低投票率制度について、見直しが早急に必要であることを指摘している。なお、参議院憲法審査会において、平成19年5月11日付、平成26年6月11日付各附帯決議がなされているので、あわせて参照されたい(以下は、意見の趣旨、理由の要約である)。

① 投票方式及び発議方式

 投票方式について、原則として各項ごと(場合によっては条文ごと)の個別投票方式とするよう見直しを行うことが必要である。
 その理由は、国会法68条の3が定める「内容において関連する事項」の基準が、一括投票に付すか否かの基準として用いられる可能性が考えられ、国民が賛否の意思を正確に表明できないばかりか、白票や無効票が増えることが危惧されるためである。

② 公務員・教育者に対する運動規制

 「国民投票運動」の定義規定に「勧誘する」という価値評価が含まれていること、公務員と教育者について、地位を利用して国民投票運動をすることを禁止していることから、萎縮効果は重大であり、削除されるべきである。

③ 組織的多数人買収・利益誘導罪

 公職選挙法と異なり、このような罰則規定を設けること自体疑問がある上、極めて不明確な要件の下に、広汎な規制を招きかねず、罪刑法定主義に抵触するとともに、自由な表現活動を委縮させる危険が高いため、削除されるべきである。

④ 広報協議会

 広報協議会の構成において公平性を担保するためには、賛成の委員と反対の委員を同人数とすべきであり、少なくとも半数程度は外部委員の選任が必要不可欠である。また、弁護士等を含めた多方面からの事務局の採用が必要不可欠である。
 その理由は、広報協議会の委員が、各議院における各会派の所属議員の比率により各会派に割り当て選任されるため(憲法改正手続法12条3項)、圧倒的多数が憲法改正賛成派の議員となり、公平性が担保されないなどの問題があるためである。

⑤ 公費によるテレビ、ラジオ、新聞の利用

 イタリア、フランス、フィンランド等では、有料の意見広告を全面禁止する一方、公費を使用して一定の公平なルールに従った意見広告を「政党等」に限定することなく、広く一般の団体等に保障しており、我が国においても、政党等が指定する団体に限らず、幅広い団体が公費による意見広告を行える制度を定めるべきである。

⑥ 有料意見広告放送のあり方

 投票14日前までの有料意見広告放送に関し、憲法改正派と反対派の意見についての実質的な公平性が確保されるような慎重な配慮が必要である。投票14日前からの禁止に関しては、表現の自由に対する脅威とならないか、禁止期間が14日間で十分かつ適切であるかなど、問題点は多数あり、改めて十分に検討されるべきである。

⑦ 発議後国民投票までの期間

 最低でも1年間は必要である。また、国民投票公報をより早期に国民に配布するようにすべきである。

⑧ 最低投票率と「過半数」

 最低投票率の規定は必要不可欠である。最低投票率の割合に関しては、全国民の意思が十分に反映されたと評価できる最低投票率が定められるべきである。また、無効票を含めた総投票数を基礎として、過半数を算定すべきである。
 その理由は、最低投票率を定めないと、投票権者のほんの一部の賛成により憲法改正が行われることとなってしまうためである。また、無効票が過半数の基礎票から排除されることも問題点である。
 なお、上記のような最低投票率を定めるべきとの意見に対しては、最低投票率ではなく絶対得票率(賛成票が有権者総数に対する所定の割合に達したときに改正を認める)とした方が適切であるとの指摘がある。

⑨ 国民投票無効訴訟

 無効訴訟の提起期間の「30日以内」は短期に過ぎる。管轄裁判所も、東京高等裁判所に限定せず、少なくとも全国の各高等裁判所とすべきである。また、無効訴訟を提起しうる場合について、憲法改正の限界を超えた改正が無効理由となるかなども含め再度検討がなされるべきである。

⑩ 国会法の改正部分

 衆参両院の憲法審査会は、合同審査会を開くことができるとされ、憲法改正原案について両議院の議決が異なった場合には、両院協議会を開くことができるとされているが、合同審査会や両院協議会の規定は、各議院の独立性に反するものとして、削除されるべきである。