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ネパール人男性の難民不認定処分が取り消された事例

会報「SOPHIA」 平成28年12月号より

会 員  下 出 太 平

1 私が担当したネパール人男性の難民不認定処分取消訴訟において、7月13日に名古屋高裁で逆転勝訴となる判決が出ましたのでご報告いたします。

2 事案の概要としては、原告は1971年にネパールで出生し暮らしていたところ1999年12月ころ、喫茶店で突然見知らぬ男性からマオイスト に入るよう強く勧誘を受け、これを断ったところ、2000年1月、帰宅中の午後7時ころ、5、6人のマオイストに囲まれ、自動車に連れ込まれジャングルに連れて行かれ、銃を突きつけられて、マオイストに入党するよう言われたため、殺されてしまうかもしれないとの恐怖を抱き、日本へ出国したというものでした。
 2000年9月に日本へ入国した後、超過滞在となり、2011年7月に難民認定申請を行いました。2013年12月に参与員審尋を受けたところ、参与員から、要旨「あなた程度の被害はたくさんありむしろ軽いほうだ」との指摘を受け、2014年7月に異議申立てが棄却され、同年12月に名古屋地裁へ提訴しました。
 私が関わったのは訴訟からでした。原告の主張を裏付ける客観的証拠はあまりなく、ある意味で非常に一般的な事案でした。

3 地裁では、原告の供述は、主要部分について変遷しており信用することができず、日本に来てから10年以上難民申請手続をしていないことなどから、むしろ入国目的は経済的動機に根ざしたものであることが窺われると判示し、棄却されました。

4 これに対し高裁では、(1)難民事案においては証明責任を厳格に解すべきではなく、むしろ処分行政庁は単に申請者の主張立証を争えば足りるものではなく、積極的な主張立証が要求される、(2)難民に該当するかどうかについて、迫害主体が国籍国である場合または迫害の主体を国籍国が放置・助長しているような場合に限定する必要はなく、迫害の主体が公然かつ広範囲に迫害行為を繰り返し、政府がこれを制止する見込みがない場合も含むと述べ、従来判例より難民認定基準を緩やかに解し、ネパール情勢を詳細に認定し、原告の個別事情について「原告の供述は主要な部分で一貫しており、変遷しているようにみえる部分についても通訳の仕方によって変わるものなので信用性は失われない」「原告は難民申請手続を知らなかったのであり、10年以上申請しなかったことは不自然でも不合理でもない」と判示して原判決を取り消しました。

5 なお、判決文では、前述した参与員審尋における参与員の発言について「難民認定に関する姿勢として到底望ましいものではない」と言及しました。私は参与員審尋に直接出席したわけではありませんが、審尋調書を確認する限り、確かに、原告が嘘を言っていると決めつけたような質問が多くあり、当時の代理人のメモにも「質問が高圧的、糾問的」との記載がありました。参与員制度が適切に機能しているのか疑問を感じました。

6 私としては、まさか覆るとは思っておらず、裁判官に助けられた面が大きいので偉そうなことは言えませんが、本判決は難民申請者の状況を適切に考慮した非常に画期的なものだったと思います。逆に、疑問に思うのは、通訳人の技量によっても異なる内容になりかねない供述調書の細かい変遷を以て信用性がないとした地裁判決や入管(国)の判断についてです。通訳人や聴取者が異なれば、できあがる供述調書の内容が細かい部分で異なってくることは当然のように思いますが、そこを理由にする対応は、結論ありきであら探ししているようにしか感じられませんでした。

7 なお、本判決は確定しましたが、現時点で原告の方は、処分が取り消されただけで、難民と認定されたわけではなく、申請手続中です。一刻も早く認定されることを望みます。

*マオイスト
 ネパール共産党統一毛沢東主義派の通称。ネパールでは、1996年から2006年にかけてマオイストと王制派の内戦があり、国内情勢の混乱が認められた。