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名古屋法教育研究会
実践授業のご報告
名古屋法教育研究会
実践授業のご報告
会報「SOPHIA」 平成30年 11月号より
法教育委員会 委員 岩田 崇仁
1 実践授業の概要
本年度の実践授業は、「アメリカ合衆国における銃規制の強化に賛成か反対か」というテーマで実施されました。本授業は、名古屋市立楠中学校の森智成教諭が担当された第1学年の社会科の授業において、地理的分野の授業の一環として行われたものです。
合計8時限の授業単元のうち、グループ討論が実施される6時限目が本実践授業であり、10月31日・11月1日、名古屋法教育研究会に所属する法教育委員会委員が各日6名、講師として派遣されました。
2 相手方に対する主張・質問
まず、規制強化賛成派・反対派それぞれのグループに分かれ、事前に検討していた、自らのグループの主張及び対立する立場のグループへの質問を発表しました。
賛成派のグループは、多数の死者を出した銃乱射事件や誤射による死亡事故の発生を指摘しました。州を越えた銃の流通を阻止すべく、販売時の身元調査をアメリカ全土に拡大したり、殺傷能力の高い銃の所持を全面禁止したりする規制強化の必要性を訴えました。
これに対し、反対派は、人口密度の低い州では警察署からの距離や財政上の制約があるために、警察による取締に限界があることに着目しました。そして、自己防衛のために銃を所持・使用する必要性を指摘した上で、法による一律の規制強化ではなく、各州の個別事情を尊重しつつ銃使用の適正さを確保するための教育を充実させることを提案しました。
また、例えば、反対派が、銃の製造数の増加に反して殺人事件による死者数が減少している事実を指摘して、銃規制の強化がただちに銃被害の軽減につながらないと主張するなど、賛成派・反対派双方が統計資料を活用して説得的な主張を展開しました。
3 質問への応答・自由討論
前記2の質問を受けて作戦タイムが設けられ、各グループのアドバイザーとなった弁護士とともに、投げかけられた質問に対する応答や追加的な反論を検討し、発表しました。
限られた時間の中で、弁護士のアドバイスに耳を傾け、意欲的に主張を組み立てようとする生徒の姿勢が印象的でした。
4 弁護士による模擬討論
授業のまとめに代えて、講師の弁護士が規制強化賛成派・反対派の討論を実演しました。
対立軸として「都市部と農村部」を設定した上で、賛成派:銃規制を強化する議案を議会に提出したニューヨーク市長、反対派:ミシシッピ州において大規模農園を経営する資産家を想定し、講師が両者の代理人弁護士を務めました。両者の主張の隔たりから、広大な国土における人口偏在や、多民族共生社会における人種差別・経済格差を浮き彫りにして、単なる討論の実演にとどまらず地理の授業として学習効果を高める工夫を施しました。
5 おわりに
本実践授業は、銃規制という身近でない問題を取り扱っており、また、討論に不慣れな第1学年の生徒が対象でした。しかし、日本の中学生が共感しにくいはずの反対派の立論が優れており、これに対して賛成派も感情論に流れず論理的に対応していたこと、日本とは異なる地理的特色に一定の理解がされていたこと、生徒の身体が前のめりになるほど積極的に参加していたことなどが法教育研究会所属の教員・弁護士から指摘され、実践授業としても成果を挙げられたと感じました。