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日本における難民の状況

会報「SOPHIA」 平成28年12月号より

人権擁護委員会 国際人権部会 部会員 川 口 直 也


1 我が国では、1982年より難民認定制度が発足しました。難民申請手続では、一次手続で法務大臣が不認定とした場合、異議申立てをすることができ、不認定処分に対しては、処分取消しを求める訴訟を提起することができます。もっとも、難民不認定処分取消請求事件において、難民勝訴の判決は、昨年は控訴審を含め全国で2件、今年(9月末現在)は今回ご紹介する名古屋高裁の3件のみです。 

2 日本における難民申請者の数は、増加の一途で、昨年の難民申請者数は7586人(前年比約52%増)と過去最多でした。
  他方、昨年難民として認定されたのは27人(一次手続19人・異議手続8人。このほか人道的配慮を理由とする在留特別許可が79人)にすぎず、難民認定率は、約0.3%です。このことは諸外国では大きく報道されていますが日本では殆ど報道されていません。
 一次手続で認定されたうち少なくとも2人は難民不認定取消訴訟の勝訴確定後の認定です。うち1件は7月の高裁判決と同じウガンダでの政治的迫害を理由とする事案です。うち1件は、初めての難民義務付け訴訟で勝訴したコンゴ出身者の事案です。異議手続で認定された8人のうち2人は愛知県のネパール出身者の事案で当会会員が代理人でした。

3 難民不認定率99%の異常事態
  難民不認定率は一次手続で5年連続、異議手続で3年連続、99%を越えています。トルコ出身者については1982年から2015年まで認定はなく、最近国内情勢が悪化して日本でも申請数が増加したナイジェリアやマリなどの西アフリカ諸国出身者についても、これまでに認定はありません。ネパール出身者についても難民認定がありませんでしたが、昨年、愛知県の異議手続において初めての難民認定があり、今年名古屋高裁で初めての勝訴判決がありました。
 日本は、保護を求めた難民申請者に対して99%以上の割合で保護を拒絶しているのが現状であり、2014年の全世界の難民認定率が27%であったことを考えると、日本の難民認定実務は国際水準から乖離しており、異常な事態と言わざるを得ません。

4 難民と認定されない原因
  日本の難民認定率が1%未満で低迷している原因は、①出身国情報を十分に調査・理解しない(日本の感覚・常識で思考している)、②申請者が経験した事実を認定せず、枝葉の供述の変遷を弾劾することに終始している、③難民の要件として指導的立場にあることを求めるなど、難民に対する門戸を閉ざす解釈・運用をしている点にあります。国家以外の主体による迫害について形式的な政権交代等を理由として安易に国による放置助長を否定して、難民該当性を否定するのも、ネパール出身者等で難民認定がなかった原因です。

5 名古屋高裁の3件の判決は、このような難民を認定しない構造的な要因を批判して、難民と認めました。
  難民かどうかを判断する際には、ⅰ出身国の情報を十分に調査・認定しなければならない、ⅱ指導的立場は要件ではなく指導的立場になくても難民に該当する、ⅲ中核事実の一貫性をもって供述の信用性を認定すべき、ⅳ出身国情報の調査・認定は、難民申請者よりも法務大臣の方が容易であるし、難民の保護は法務大臣の責任であるから、その責任は行政手続では勿論、訴訟手続においても法務大臣が負担すべきである、ⅴ法務大臣(難民審査参与員)は、この程度の迫害は難民に該当しないという予断をもって審理を行ってはならないなどです。今般の名古屋高裁判決は、 国際水準に基づく判決と理解しています。

* 難民審査参与員
 難民不認定処分の異議申立手続において、判断者が原処分者と同じ法務大臣となっていることから、第三者の視点を入れる趣旨で、2005年の法改正により、難民審査参与員制度が導入され、法務大臣は参与員の意見を聴くこととなった(入管法61条の2の9第3項)。しかし、当局とは別の第三者的視点が十分に生かされていないとの指摘がされているところである。