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多民族国家マレーシア

会報「SOPHIA」 平成30年7月号より

国際委員会 委員 大 嶽 達 哉


 6月1日から6日まで、日弁連が企画したマレーシア視察に随行したので、その報告をします。
 マレーシアといえば、20世紀末のルックイースト(Look East)政策(日本や韓国の近代化を手本として国民の教育を行い、意識を改革して経済発展を促進しようとする政策)が想起されます。実際、クアラルンプールの街では、ツインタワーをはじめとした、今でも建築が続く高層ビル群に圧倒されました。高層ビル群には世界的な企業が入居し、商業ビルには世界的ブランドが並んでおり、日本企業も負けずに進出しています。
 対照的に、そうしたビルの隙間には、庶民の胃袋を満たす小さな店がひしめいています。特に、歴史的に多様な国々との交流があったこの国では、多様な民族の店が普段の暮らしを支えています。マレー系、中国系、インド系、ヨーロッパ系等々。いまでも、約3200万人の人口のうち、近隣諸国から600万人を超える外国人が移民として、この国に働きに来ているそうです。
 こうした文化の多様性を反映して、マレーシアの法も多層の構造を持つものとなっています。中心となるのは、19世紀にこの地を支配していたイギリスのコモンローです。このほか、イスラム法の適用が一定の制度として存続しています。イスラム法廷が存在するほか、各州にはスルタンがおり、国王はその中から選出されています。 

 訪問したマレーシア弁護士会でも、応対していただいた役員は、多様な民族的背景を持つメンバーで構成されていました。アジアの他の国では、多民族国家といえども、こうした役員は一定の民族のみで構成される国もあるだけに、この多様性は非常に印象的でした。男女比についても、女性の弁護士の方が、登録が多いとのことでした。もちろん、対応いただいた役員にも女性が多くいました。半面、マレーシアは、マレー系民族を優遇する政策であるブミプトラ政策がとられていることもあって、国際公法上重要である主要な人権条約を批准していないという側面もあります。
 翻ってみるに、日本は、移民の受入れを正面から認めるか否かの岐路にあるといえます。労働力人口の減少を踏まえた現実問題として、移民の受入れは避けられないとも言われています。そのような中、多様な民族的背景を持つ人々が一つの社会の中で暮らしていくために、マレーシアの状況というのは、非常に示唆に富むように思われます。
 もちろん、マレーシアの施策をそのまま日本に持ち込むのが良いというのではありません。しかし、「欧米諸国の進んだ文化を学べ」という発想にいつまでも固執するのではなく、同じアジアの多民族国家であるマレーシアからも、学びうるところは学んでいくべきではないか、と今回の視察を通じて、強く思わざるを得ませんでした。

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