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名古屋市の「名古屋土曜学習プログラム」にて模擬裁判を実施しました!
会報「SOPHIA」 平成30年7月号より
法教育委員会 委員 岩 田 崇 仁
1 名古屋土曜学習プログラムの趣旨
名古屋市では、小学生を対象として、体験型の課外学習講座「名古屋土曜学習プログラム」が開催されています。この度、同プログラムの講師を務められた名古屋学院大学の菊池八穂子先生(初等社会科教育)から、小学校4年生から6年生までの児童を対象として模擬裁判を取り扱いたいという依頼があり、6月23日(土)、細溝耕太郎副委員長をはじめとする6名の法教育委員会委員が名古屋市立自由ヶ丘小学校に派遣されました。
2 事案の概要
模擬裁判の事案は、小学校の教師である被告人が、2人の酔っ払った男性から殴る蹴るの暴行を受けている元教え子を発見し、助けようとして酔っ払いに殴りかかったというものです。被告人は空手の有段者であり、被告人に殴られた酔っ払いのうち一人があごを骨折する全治3か月の重傷を負ったため、傷害罪で起訴されてしまいました。正当防衛の成否が主な争点です。
過去に法教育委員会が実施した模擬裁判講座において複数回使用され好評を博していた教材をもとに、早川直樹委員・宮嶋志帆委員が改良を加えたものです。
3 模擬裁判劇及びグループ評議
当日は、まず、花村総一郎委員の司会の下、名古屋学院大学の学生にて上記事案を再現する寸劇が行われました。その後、代表の児童が裁判官・検察官・弁護人役を担当して模擬裁判劇を行いました。最初は緊張していた児童でしたが、鬼頭華子委員らのサポートもあり、冒頭手続、証拠調べ(元教え子の証人尋問及び被告人質問)、論告弁論における各役割を演じきることができました。
その後、児童が5名程度のグループに分かれ、弁護士による進行で評議を行いました。
評議においては、正当防衛を認める児童から、証人の「このままでは酔っ払いに殴り殺されてしまうと思った」という供述を根拠に侵害の急迫性を認定する意見が出される一方、また別の児童から被告人が空手の有段者であって被害者が凶器を所持していなかったことから防衛手段の相当性を否定して過剰防衛とする意見などが出されました。
また、その後のグループ発表においても、仮に被告人を有罪とすると同種事案において萎縮効果が生じて元教え子の立場に置かれた人が助けてもらえなくなるため無罪とすべき、懲役刑を科すと被告人が失職するおそれがあり社会的制裁が過酷すぎるため罰金刑にとどめるべきなど、様々な指摘がありました。児童が唯一の正解を求めるのではなく、多角的な視点から最善の解決策を検討していたことがよく分かりました。
4 おわりに
多くのグループ内で有罪・無罪の結論が分かれただけでなく、評議の前後で自分の意見が変わったり、迷いが生じたりする児童が少なくありませんでした。自分の考えを説明することの難しさや、他人の意見を尊重することの大切さを感じ、価値の多様性に触れることができたのではないでしょうか。
法教育委員会では、中高生を対象とした活動を中心としてきましたが、近年、サマースクールにおいても小学生向けの憲法講座や模擬裁判講座を実施しており、小学生を対象とした活動も活発になっています。今後も、少しでも多くの児童及び生徒に法教育の機会を提供すべく活動していきたいと思います。