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河村たかし名古屋市長と池田桂子会長との対談

会報「SOPHIA」 平成30年2月号より

 本年度当会会長と他組織の長との「トップ対談」、大村秀章愛知県知事、朝日新聞社坂本弘子名古屋本社代表に続き、最後は河村たかし名古屋市長のご登場です。1月30日に名古屋市役所で行われた対談内容をご紹介いたします。

会報編集委員会

1 はじめに

(会長)先日は愛知県弁護士会行政連携センターの開設記念シンポジウムにてご挨拶をいただきありがとうございました。
 当会は、1月5日に愛知県弁護士会行政連携センターを開設しました。同センターは、地域住民に対するセーフティネットの役割を果たしておられる自治体を始めとする行政の皆様との連携をこれまで以上に強化することにより、地域に貢献することを主眼として開設されたものです。
 市長からご覧になって、これまでの名古屋市との当会と連携をどうみておられるでしょうか。
(市長)名古屋市は、弁護士会との間で、従来から、市民向け法律相談業務の委託事業や各種委員会への委員の派遣等で連携を深めてきました。また、相談事業だけをとっても、住まいに係る法律問題、中小企業支援や外国人市民を対象とした専門相談に相談員を派遣してもらう等、連携分野が広範かつ多様な分野に及んできていると思います。
 ただ、先日のシンポジウムの際にも話題になりましたが、自治体にとって、弁護士や弁護士会は、ともすれば、何をしてくれるか見えにくい、「敷居が高い」というイメージがあったように思われます。
 その意味では、行政向けの窓口となるセンターが開設されたり、今回のようにトップ会談が開催されるのは相互理解を深めるという意味で大変意義があると思いますよ。
(会長)仰るとおり、相談事業については専門分化が進みつつあるかと思います。それだけではなく、従来、市民向けの法律相談が主であったのに対して、近時、消費生活相談員や自治体職員の方等、行政職員等向けの相談のニーズが高まりつつあることも実感していますし、例えば、自治体の消費者行政部局の職員との連絡協議会等実践例が生じつつあるものと理解しています。
 また、弁護士のイメージという点ですが、行政連携センターの特徴の一つは、「座して待つ」だけではなく、各市町村の首長のインタビューの実施等アウトリーチをすることにあります。
 今回の対談もその一貫として行われるものですが、特に、センター開設後、トップバッターとしてインタビューを受けていただくものですので、会としても、大変意味があるものと考えています。


2 目指すまちづくりの方向について

(会長)話を名古屋市の施策に移したいと思います。市長は、「世界のナゴヤ、本物ナゴヤ、ぬくとい市民」をマニフェストとして掲げられており、その実現のために、目指すまちづくりの方向性、施策を基本計画に取りまとめておられますね。私は、「ぬくとい市民」という言葉に惹かれるのですが、この言葉に市長が込められたメッセージについてご説明いただけますか?
(市長)名古屋のまちは戦争ですべて焼けてしまい、その後の復興の過程で、大阪の法善寺横丁のような人間味のある路地もなくなってしまいました。そのような人間臭さ=ぬくとさを取り戻し、市民の気持ちが温かくなるような本物志向のまちづくりを進めたいと考えています。私は、マニフェストで、「世界のナゴヤ、本物ナゴヤ、ぬくとい市民」の内容として、「1)最強の 防災・経済 2)どえりゃあ おもしろいマチ 3)福祉に教育に あったきゃあ市民 4)民主主義もおもしろい」の4つの項目を挙げました。
 「ぬくとい」というのは名古屋弁で「温かい」という意味ですが、ここでは、経済基盤が強化され、市民の懐が温まるという意味と、名古屋市民が他者に温かいという二つの意味を持たせています。後者については、具体的には、「福祉に教育に あったきゃあ市民」、福祉・教育分野が充実し、誰もが安心して暮らせるまちづくりを目指すということになります。

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3 教育・子どもの福祉分野

(会長)ありがとうございます。確かに、名古屋市では、教育・福祉の分野で様々な施策に取り組んでおられるようですね。
 特に、「人口減少社会における人口構造の変化への対応」を重点課題の一つとし、「人権が尊重され、誰もがいきいきと過ごせるまち」をめざす4つの都市像の一つとして掲げ、様々な施策に取り組んでおられますね。
 また、その一貫として、「子育て世代に選ばれるまちをつくるとともに、地域の活力を高める」ということを重視し、「安心して子育てできる環境づくり」に取り組んでおられるように思います。
 具体的な施策として重視しておられることをご説明いただけますでしょうか。
(市長)まず、働きながら子育てをしやすい環境づくりのため、保育所等利用待機児童対策を進めています。民間保育所の整備や小規模保育事業所の設置等、様々な手法により利用枠の拡大に努めるとともに、全区役所・支所に配置している保育案内人を始めとして、個々のニーズに即したきめ細やかな対応を行っています。
 また、常勤のスクールカウンセラーを始めとする3つの職種と、非常勤のスクールポリスからなるスタッフにより構成される「なごや子ども応援委員会」を市内11ブロックの中学校に設置し、子どもにとって最も良い環境づくりを学校と一緒に考え、児童生徒の問題の未然防止、早期発見や個別支援を行っています。
 さらに、子ども・若者の自立支援のための総合的な相談支援体制を構築するため、ネットワークの構築を推進しています。
 例えば、アメリカには不登校という言葉はありません。それは一人一人の子どもに合わせた教育方法が認められているためです。名古屋市においても、貧困等多様な悩みに苦しむ親と子にアウトリーチして、学校だけでなく社会全体で支えていく仕組みを整えていきたいと考えています。
(会長)市長の子ども達のみならず親世代への熱い思いを感じました。本年度、インタビューを実施したいずれの自治体首長からも、教育・子どもの福祉の分野への強い関心、意欲をコメントしていただいております。
 当会においても、教育分野においては、例えば、主権者教育のための学校派遣事業、教育分野における学校評議員への就任、コミュニティ・スクールへの参与等のお手伝いをしております。
 さらに、子どもの福祉分野においては、従前より、いじめ問題、虐待問題への対応をしており、例えば、いじめ対策検討会議委員の就任、子どもサポート弁護団による児童相談所における法律相談や法律援助、いじめ予防出張事業の実施等をしてまいりました。最近では、未成年後見人についての弁護士推薦等も実施しています。また、無戸籍児問題への対応、学校現場全般の問題に弁護士が関わるスクールロイヤー制度も実施しています。
 いろいろと活用をご検討いただければと思います。


4 高齢福祉分野

(会長)次に、高齢社会への対応に話題を移したいと思います。
 「人口減少社会における人口構造の変化への対応」という意味では高齢社会への対応も重要になるかと思います。
 平成29年度の内閣府統計では、総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)が27.3%に達し、実に、4人に1人以上の方が高齢者であるという超高齢化社会を迎えつつあり、特に、介護の必要な高齢者への支援の必要性が高まっています。この点に対する名古屋市の取組についてご説明ください。
 また、平成29年3月に成年後見制度利用促進基本計画が閣議決定をされ、権利擁護支援の地域連携ネットワーク作り、その整備のための中核機関の設置が義務付けられ、認知症、障害のため判断能力が低下した方への自治体の関わりが強く求められています。この分野における司法と行政との連携、役割分担についてのお考えをお聞かせください。
(市長)名古屋市では、地域住民が住み慣れた地域で助けあい、安心して尊厳のある生活を送ることができることをめざし、地域包括ケアシステムの構築、地域福祉の推進を展開しています。その一貫として、例えば、認知症サポーターの養成講座を充実していきたいと考えています。高齢化社会の進行に伴い、今後相談者やそのご家族で認知症の方が増えてくると思われますので、是非弁護士の皆さんにも養成講座を受講していただき、認知症サポーターになっていただきたいですね。
 また、中核機関については、成年後見あんしんセンターの機能面を充実させていくことを考えています。弁護士会からは、既に、運営懇談会の委員に弁護士を派遣してもらっていますが、今後とも連携を強化できればと考えています。
(会長)当会においても、高齢者・障害者分野は、かねてより名古屋市との連携があるところです。各種委員の派遣、専門相談の実施はもとより、介護保険標準契約書等の作成、虐待事案・処遇困難ケースにおけるカンファレンスへの委員派遣、福祉の専門家に対するFAX相談事業、いきいき支援センターにおける法テラスを利用した巡回相談事業を実施するほか、市長申立事案における後見人等候補者の推薦に関する覚書を締結する等、名古屋市との間で様々な連携を進めてまいりました。
 特に、今年度から、高齢者問題における地域ネットワークの構築、その中核としてのいきいき支援センターの重要性に鑑み、地域毎の担当弁護士が地域包括ケアシステムに参与し、いきいき支援センター職員から相談を受けるという地域包括相談支援業務の拡充に取り組んでいます。
 また、中核機関の設置についても、愛知県司法書士会、愛知県社会福祉士会と連携しながら、家庭裁判所とも協議のうえ、取組を開始しています。


5 障害福祉分野

(会長)続いて、障害のある方が地域で自立して安心して暮らせるように支援するための取組、自らが希望する生活を送れるようにするための取組として、どのような事業を実施されているかご説明ください。
(市長)まず、すべての障害を対象とする地域の相談支援拠点である障害者基幹相談支援センターの運営を通じ、障害のある方の相談体制を整備しています。
 また、障害者虐待相談支援事業を通した虐待問題への対応を実施しています。
 更に、障害者就労定着支援事業等を通じ、障害者の一般就労の促進及び定着のための支援を実施する等しています。
(会長)当会においても、障害者の虐待問題への対応、成年後見業務等を通じ、障害のある方の支援事業に取り組んでいます。
 また、本年度は、市内の障害者基幹相談支援センターとの勉強会・協議会を通じ、連携を強化してまいりました。
 次年度からは、試行的に、障害者基幹支援センターに担当弁護士を貼り付け、ご本人等からの相談を受ける法律支援事業への取組を検討しています。是非、ご利用ください。
 さらに、障害者差別解消法に即した対応指針等への参与、講師派遣等にも取り組んでおりますのでご利用いただければと思います。


6 男女共同参画・働き方改革

(会長)近時、ダイバーシティ・インクルージョンの視点から、「男女共同参画」「働き方改革」が社会的要請として求められています。当会においても、本年度、「男女共同参画推進基本計画」を策定し、数値目標の設定を始めとし、性別に関係なく積極的に会の活動に参加できるよう、具体的な施策の実現に向けて取組を開始しています。
 名古屋市における重点課題である「人口減少社会における人口構造の変化への対応」のためには、女性の活躍推進を含め、性別等に関わらず、全ての人材が活躍できるようなまちづくりが必要であると思いますが、市長として特に重視しているのはどのような点ですか。
(市長)名古屋市では男女共同参画を総合的に進めるために、女性と男性が互いに人権を尊重し、性別に関わりなく、一人一人の個性を十分に発揮できるよう、様々な施策を展開しています。
 具体的には、女性のための総合相談や、DV被害者支援を実施する等して男女の人権の尊重を図ろうとしています。この相談事業、支援事業には弁護士会の多数の弁護士に参与してもらっています。
 また、男女共同参画社会の実現に向けた意識改革として、市民向け、企業向けに各種セミナ-・講座を実施する等しています。
 さらに、女性の活躍推進を図るため、審議会等における女性委員の登用促進や、女性の活躍推進企業認定・表彰制度を実施しています。
(会長)当会としても、引き続き、女性のための総合相談や、市民・企業に対する啓蒙活動としての講師派遣、セミナーの実施、各種委員の派遣等でご協力ができればと思います。特に、企業に対するセミナー等については、あいち中小企業法律支援センター、男女共同参画推進本部にて対応をさせていただくことができますのでご利用いただければと思います。


7 災害対策分野

(会長)名古屋市では「南海トラフ巨大地震への対応」が重点課題の一つとされ、「災害に強く安全に暮らせるまち」をめざす4つの都市像の一つとして掲げられています。
 「災害に強く安全に暮らせるまち」づくりのためには、公共施設を始めとする建築物の耐震化等ハード面の整備のみならず、地域における防災力を高める取組が重要であると思われます。この点についての市長のお考えをお聞かせいただければと思います。
 また、発災後の様々な問題への対応のための取組についても説明をいただければと思います。
(市長)市民及び事業所の自助力向上の促進のため、地域行事等での啓蒙活動を実施し、あるいは、地域の自主的な活動として高齢者や障害者等災害時要援護者の迅速な安否確認や避難支援を行うため、避難行動要支援者名簿の提供等を通じてあらかじめ地域で支援方法を決めておく助け合いの仕組みづくりを推進しています。
 また、各団体と災害時の協定を締結しており、発災時の情報提供、その後の対応を円滑に実施できるような体制を構築しています。
 弁護士会とも昨年度、災害協定を締結しており、情報提供の実施、被災者等を対象とした無料法律相談等の速やかなる実施をしてもらうことを期待しています。
(会長)弁護士会としても、災害協定に基づき、災害問題、例えば、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」、災害対策についての情報提供に努めています。今後は、研修等を通し、名古屋市との相互理解を一層深め、防災体制の一翼を担いたいと考えています。
 また、災害ADR等の設置も検討中です。


8 消費者行政

(会長)「安全に暮らせるまち」の実現という意味では、消費生活の安定・向上が不可欠だと思われます。
 特にこの分野においてはどのような事業に重点を置かれているでしょうか。
(市長)消費者被害防止のために消費生活フェアの開催等を始めとする消費者啓発を行っています。また、消費生活センターにおける相談事業の実施・充実、情報提供事業の実施を行っています。
 また、学校教育においても消費者教育が重要であると認識しております。特に今後は、高校生向けの啓発事業がさらに求められていくものと感じております。
(会長)市長が仰るとおり市民への啓蒙活動・消費者教育が重要であると思います。特に、消費者教育推進法が平成24年に制定され、成年年齢の引下げが議論されるなかでは、高校教育における消費者教育の必要性が高まっているものと思われますので、今後、高校生向けの啓発講座等を実施される際には、消費者問題に取り組んでいる弁護士を講師として派遣し、ご協力をさせていただければ幸甚です。
 また、消費者行政の中核機関である消費生活センターの充実が重要であると思われます。当会においては連絡協議会を定期開催させていただいておりますが、より実効性を強化するために、消費生活相談員を対象とした相談業務を実施することを検討中です。
 さらに、高齢者等における消費者被害が社会問題化し、地域における見守りが必要とされています。地域における啓蒙活動の実施、ネットワーク作りのために講師等を派遣できるかと思います。また、当会では「訪問販売お断りステッカー」を作成しておりますので、是非、ご活用下さい。


9 空家等対策

(会長)適切な管理が行われていない空家等が防災、衛生、景観等の地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼすため、快適な都市環境を整備するうえでも、社会資源を有効活用するうえでも、空家問題への対応がかねてより地方自治体の課題とされています。特に、平成27年5月26日に空家等対策の推進に関する特別措置法が完全施行され、地方自治体に義務が課せられて以降、各自治体における取組が加速しております。
 名古屋市における空家問題への取組状況等についてご説明いただけますでしょうか。
(市長)名古屋市においても、平成26年4月1日に名古屋市空家等対策の推進に関する条例を施行し、特別措置法の施行を受け、様々な取組を行ってきました。具体的には、空家に関する調査の実施、弁護士会を含む関係諸団体との空家問題に関する協定の締結がこれにあたります。また、昨年12月25日には空家等対策の方針、方向性を明確化し、より効果的・効率的に空家等対策を推進するために「名古屋市空家等対策計画」を策定しました。
 今後は、上記対策計画に基づき、弁護士会を含む関係団体と協力の下、対策に努めていきたいと考えています。
(会長)空家問題への対応は行政との連携事業の中でも特にニーズが高い分野であると理解しています。空家問題は、所有者、近隣者、行政職員からの相談事業に始まり、各種啓蒙活動への参与、不在者財産管理人、相続財産管理人、成年後見人等の選任・就任等による法的な処理等様々な場面での関わりが想定されるところですし、これら事業を全て行えるのは法律専門職である弁護士のみであると思います。
 当会としても、今後ますますの連携の強化、より実践的な事業への参与を図ってまいりたいと思います。

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10 終わりに

(会長)当会においては、これまでも行政職員向けのセミナー等を通じ、自治体等職員との交流、法務教育事業を実施してまいりました。また、本年度、当会においては、特に、教育・福祉分野を中心として、行政との連携を強化するため、地域福祉の担い手である自治体等行政職員の皆様に法務教育を行う事業への取組を開始しています。
 さらに、自治体との連携強化という観点から、任期付公務員の就任のための事業にも取り組みつつあります。
 このような当会の取組や、今後、弁護士会に期待することについて率直にお考えをお聞かせください。
(市長)始めに述べましたように、名古屋市は弁護士会との間で、各種相談事業、委員派遣等を通じ、これまでも連携を図ってきましたし、消費者行政、子どもの福祉分野等、その関わりはより専門的かつ広範となりつつあります。
 任期付公務員についても、名古屋市の場合、児童相談所に2名の弁護士を任期付公務員として配置しています。
 今後もこうした連携を引き続き行っていくとともに、ますます多様となる市民ニーズに応えるために、更に連携を進めていければと思います。
 特に、今回、弁護士会が行政連携センターを開設したことを受け、名古屋市としても、連携窓口を設け、より緊密な関係を構築していきたいと考えており、その一貫として、包括連携協定を弁護士会と締結することも検討中です。
(会長)ありがとうございます。今後、名古屋市を始めとする行政の皆様からのニーズに積極的に応え、地域に貢献していきたいと考えております。
 より一層の連携の強化をお願いいたします。