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朝日新聞社坂本弘子名古屋本社代表と池田桂子会長との対談

会報「SOPHIA」 平成29年12月号より

 9月号に続く本年度当会会長と他の組織の長(トップ)との対談の第2弾です。今回は、女性トップ同士の対談です。
 11月27日に、朝日新聞名古屋本社で行われた坂本弘子代表と池田桂子会長の対談内容をご紹介いたします。

会報編集委員会

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(会長)朝日新聞入社から現在までの簡単なご経歴をご紹介ください。
(代表)1981年に朝日新聞社に記者職で入社し、初任地の岡山に4年ほどいました。警察の事件担当や司法担当もしていて、裁判所にも取材に行ったりしていました。その後東京で長かったのが、学芸部(現、文化くらし報道部)という生活情報の部署でした。
(会長)1981年に入社されたころは、女性はどのくらいいらっしゃいましたか。
(代表)記者職三十数人中、女性は3人でした。その少し前まで2年に1人くらい採用する時代があり、1978~79年くらいから毎年1~2人採用して、私の年は3名でした。男女雇用機会均等法が成立するだろうという見通しが会社側にもできて8人くらいに増やしたのが1983~84年くらいだったと思います。
 私が就職をした当時、とりわけ女性については採用試験が公募制でない企業が圧倒的で、指定校制や紹介制、縁故採用などが目立ち、就職先をさがすのは大変でした。採用試験を受けることもできない会社が多く、受けられても「仕事は男性の補助のみ。結婚したら即退社」と当然のように告げられます。その中で、朝日新聞社は、男女同じ採用試験、かつ同一賃金で、他の民間企業で男女同一賃金の会社は、私が当時調べた範囲ではほとんどありませんでした。大学の授業料は同額なのに、就職した瞬間に差がつくというのが、納得できない思いでいましたので「どうせ同じ苦労をするのなら、(男女)同じ給料ならまだ納得ができるかな」と考えて入社を決めました。
(会長)入社されてからは、学芸部等色々な部署を経験されておられますね。
(代表)私が学芸部を担当するよう言われて東京に転勤したのは、家庭面の記事を毎日1頁から毎日2頁に増やすというタイミングでした。新聞にとっては政治や経済などの硬派な記事も大事だけれど、身近な生活に役立つ記事もこれからは大事な時代が来る、朝日新聞は生活情報をこれまでの2倍発信するぞ、という勢いのある時期で、紙幅もたっぷりあり、結構自由に企画を立てて取材させてもらえ、恵まれた職場だったと思います。女性の働き方や保育園の問題、家族のあり方、医療取材、ファッションや料理のコラム。漫画家の長谷川町子さんの担当をしたこともありました。当時、サザエさんの連載は終了していましたが、時折作品を書いてくださっていて、打ち合わせなどで何度もご自宅にお邪魔しました。
(会長)2013年に執行役員になられましたね。執行役員になられるというのは、適齢期としては、男女は関係なかったのでしょうか。
(代表)それはもう、男女は全く関係ないと思います。執行役員だけでなく、どのポストも男女は関係ないです。
(会長)名古屋本社代表ということで、名古屋の地域性について何かお感じになりますか。
(代表)企業の管理職の方が来られる集まりにお邪魔させていただくことが多いのですが、どの会議やパーティーに行ってもまず男性しかいらっしゃらないというのは、目に見えて東京とは違います。管理職に限らず代理出席可能な会議、参加資格自由の集まりに行っても企業の方は男性が大多数ですね。
(会長)愛知県、東海地区においては、中小企業・事業者の代表者には女性が少ないですが、どのような問題があるとお考えですか。
(代表)1つには、もともと製造業の多い土地柄で、働く方も男性が多く、女性が入りにくいというイメージがある、業種としての特性のようなものが妨げになっているのかなとは思います。
 地元の企業の方から、管理職ポストに女性を配置したとか、女性の管理職を新しく雇用した等のお話を聞くのですが、役員クラスの方はまだ少ないですね。ただ四十代くらいの女性には部長など管理職を務めておられる方も多くいらっしゃって、業種や組織を超えた交流会でお会いします。今後が大いに期待できると感じます。
(会長)最近企業の方とお話をしていると、上場企業等では、執行役員まではいかないけれども、法務部長や人事部長等、もう一歩のところで執行役員になっていく段階のところで女性は確実に増えていると思います。
(代表)そうですね、多分そういう世代が育ってきているのだと思います。
(会長)ダイバーシティは、どの分野においても注目されている取組ですが、御社での取組はいかがでしょうか。
(代表)わが社の新入社員のデータをご紹介しますと、女性は33%くらいです。ただ、全社で見ると、女性社員はまだ18%にとどまっており、まだまだ女性が多いとは言い難い状況です。
 会社としては、女性活躍推進法もできて、女性管理職を増やす数値目標を作る等して取り組んではいますが、きわめて先進的とまでは言えない気はします。ただ、取組のスタートは早く、法定期間より長い育児休業期間の制度などハードとしての制度は整っていると思います。
(会長)朝日新聞名古屋本社では、「愛知の女性活躍」をテーマに11月にフォーラムを開催されました。その反響はいかがでしたか。
(代表)8、9年前から、女性が自分らしく生きられるようにという趣旨で、毎年テーマを変えながら、年1回くらいイベントを開催しています。今年は愛知県副知事をはじめ、大学関係者にパネリストとして集まっていただいてお話をお聞きしました。参加者は約130人で、「さらに詳しく話が聞きたい」など反響が大きかったです。これからも毎年何らかの取組をしたいと思っています。
(会長)女性のトップとして、日ごろから組織運営で意識しておられることはありますか。
(代表)個人的には、組織はよくマンネリという病気に陥るので、社から肩書を頂いている立場として、常に組織を活性化していくのが仕事だと思っています。でもそれは、女性ということとは特に関係が無いですね。ずっと女性としてしか働いていないのでよくわかりませんが、会長はどうですか。女性としてというようなことが何かありますか。
(会長)あまりないですね。でも、仕事をやるときには、自分も楽しく周りの人も楽しくと、同じことをやるのであれば昨日よりも明日が楽しくというように思っています。
(代表)なるほど、そうですね。私もずっと子育てをして働いてきて、時間をいかに効率的に使うかが最優先課題でしたから、どこかで楽しむ要素を取り込まないとフル稼働で働けないので、仕事や子育ての中にも楽しむ要素を混ぜ込んでやってきたと思います。
(会長)司法における「男性・女性」に関する考え方や取り上げ方について、ご意見やご感想がありましたらお聞かせください。
(代表)愛知県弁護士会の会長以下、役員の半数が女性になり、一般の人から見た弁護士のイメージもずいぶん変化していると思います。女性がいるということによって、この仕事を女性が担うこともあるんだと周りの人が認知できるということの意味は大きいと思います。そうした積み重ねが、これまでと異なる新しいことを生み出すのではないかと常に思っています。


(会長)これまでのご活動の中で、特に継続的に関心を持っておられる社会問題ですとか、印象に残っている事件とかがありましたら教えていただけますでしょうか。
(代表)私が二十代のころ、障がい児を持つお母さんの「仕事を続けたいんだけれど、世の中がそれを理解してくれない」という話を紙面に掲載したときのことです。記事に関して匿名の手紙が届いて、開封したところ新聞や雑誌の活字を一文字ずつ刻んで貼った手紙が出てきました。「障がいのある子どもを持っている女が働くとは何事だ。母親失格。そんなものを取り上げる新聞社は許さん」とありました。私は、なぜこれほどの糾弾の言葉が投げつけられるのか理解できませんでした。個人個人の人生というものが、妻であること、母であること、ハンディキャップを持つ子の親であることによって、当人の気持ちや事情とは無関係に、第三者が制約をし、仕事をする自由さえ認めない。しかもこうした憎悪に満ちた形で敵意が表現される。殺気めいたものを感じました。ちょうど男女雇用機会均等法がまもなくできるという時代背景でしたので、この手紙がまかり通らない社会でなければならないと思い、今でも時に、そうじゃない社会は実現できているだろうかと振り返ります。
(会長)最近はヘイトスピーチの問題があちこちにあり大変な問題なのですが、御社ではどのように取り組んでいらっしゃいますか。
(代表)ヘイトスピーチのような扇情的な発信や、意図的なフェイクニュースなど、他者への理解を阻む事象がはびこる世になりました。1987年の朝日新聞阪神支局襲撃事件を機に弊紙では「『みる・きく・はなす』はいま」という長期連載を随時掲載し、すでに42シリーズとなります。市民が自由にものを言える社会があってこそ、新聞が暴力に屈することなく自由に書くことができるという考えから始まり、最新の連載では悪意あるフェイクの拡大などを取り上げました。メディアの役割として、様々な情報のファクトチェックを行うという機能が一層重要になってきたという実感があります。
 また最近はSNSが世の中のコミュニケーションツールとして重宝され、特に若い世代はほとんどSNSのみ、という時代になっています。わが社も朝日新聞デジタルというネットの新聞も出していますし、それ以外にもデジタル商品をいくつも作っていますから、SNSを通じてどんどんニュースが広がっているという意味では有難い部分はあります。反面、簡単に人を傷つけたり、それこそフェイクが拡散したり。便利さの裏側にも注意が必要です。
(会長)ビジネスと人権ということが言われるようになってきまして、例えば最近ではLGBT等、上場企業が対応をしてきていますが、こういった人権問題について、現状把握やご意見をお聞かせいただけますでしょうか。
(代表)朝日新聞社では、今春から、同性パートナーに対して、結婚休暇、転任旅費、慶弔金、家賃補助等、全て配偶者と同じ扱いにする制度に切り替えました。
 経済団体の調査などをみると、他社でも大手企業は動きが早く、9割方は何らかの取組を既にしているか取組の準備をしています。企業が人権に対して強い反応をする時代になってきました。大企業はそういう動きには敏感になっていると思います。

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(会長)最近、特に関心をお持ちの人権問題は何でしょうか。
(代表)朝日新聞では昨年から解決模索型報道といって、世の中で問題になっていることを掘り起こしつつ、どうしたら少しでも解決への道に近づけるかということを、読者のみなさんとともに模索して追いかけて行こうという取組に力を入れています。そのひとつに「子どものいのち」にフォーカスした一連の報道がありました。
 なかでも朝日新聞デジタルで総計一千万に届こうかというページビューを記録したのが、2016年秋に掲載した「バイバイ 笑顔の幼子」という題の記事でした。子どもを橋から川に落として死なせてしまったお母さんを直接取材し、そこに至る経緯や心情を聞き、最期に手を離して子どもを落とすとき、その子がお母さんを見て「バイバイ」と言ったという内容です。ものすごい反響で、朝日新聞デジタルを読んでいない方にもFacebookやTwitter経由で広がり、大きな話題になりました。
 子どもの人権や虐待についての記事は、わが社も長年書いてきていますけれど、やはり耳目を集めないことには理解が広がりにくい。どうしたら大勢の人の心に届くかという模索をしてきました。先程申し上げたようにSNSがあったから広がった一例です。社会に情報を張り巡らせていく循環の機能をSNSのおかげで我々も活用できるという意味で、「子どもの人権問題を考えましょう」という活字だけではできない発信が可能になったと感じます。
 もちろん、これだけ少子化が進み、子どもが大切に育てられてしかるべきなのに、現実はまったくそうではないという格差の実態、つまりニュースコンテンツの力があることは言うまでもありません。フェイクがあふれる今の世の人々からも、真実は確かな共感を集めるのだと改めて確認できた記事でもありました。
 通り一遍の取材ではなく、当事者の生の思い、関係者の証言をぎりぎりまで追い続けることによって、課題解決模索型の報道をこれからも続けたいと思います。
(会長)今後、憲法改正議論がさらに活発化すると思われます。弁護士会としては、まず議論をするためには正確な情報をお伝えする、あるいは考え方の切り口をできるだけ整理してお伝えするということが役割だと考えていますが、若い世代がなかなかこの議論に乗ってこない状況があります。マスメディアとしては、どのような役割を果たすことが可能あるいは必要だと考えていらっしゃいますか。
(代表)わが社も「ともに考え ともにつくる」をテーマに掲げ、多様な議論を皆で考えて世の中を作っていくことを大きなミッションと考えているのですが、残念ながら、幅広い議論をする前に、政治への関心があまりにも希薄です。前回の衆議院選挙でも、どの新聞社も少しでも若い人に興味を持ってもらおうと、ネットを使った企画を仕掛けたり、速報をネットで見やすくしたりしていろんな工夫をしていますが、成功しているとは言い難い状況にあります。
 憲法改正は、この先長きにわたって皆の暮らしや社会づくりそのものに影響することなので、まずは興味を持ってもらうという作業が絶対に必要だと思います。わが社でも憲法についてはおそらく来年も大きな報道課題として取り組むことになると思いますが、ただ記事を書くだけでなく、若い世代に幅広く議論の裾野を広げていくことに力を尽くす必要があると考えています。
(会長)弁護士・弁護士会の印象や、弁護士・弁護士会に望むことはありますでしょうか。
(代表)もっともっと発信をしていただけるとありがたいです。弁護士というお仕事にも面白さや醍醐味がたくさんあると思いますし、重要なお仕事なので、その役割を多くの人が知ることで、例えば何かの被害に遭ったりトラブルを抱えたりしたときに、「あ、弁護士さんに頼ろう」とすぐさま思いつく。早い立ち上がりが早い解決につながることもあるでしょう。
(会長)今日は、お忙しいところをありがとうございました。