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歴史への説明責任 ~あるべき情報公開と公文書管理を考える~
会報「SOPHIA」 平成30年3月号より
情報問題対策委員会 委員
浮 葉 遼
はじめに
3月中旬、財務省が森友問題に関する文書の書き換えを認めた。行政への信頼が揺らぐとともに公文書管理の問題が注目を集めている。当委員会では、3月4日、ウインクあいちにて、長野県短期大学准教授の瀬畑源氏と神奈川県弁護士会所属の森田明弁護士を招き、公文書管理について、標記の講演と対談を行った。
瀬畑氏の講演内容
南スーダンPKO文書問題、森友学園問題そして加計学園問題には、公文書管理が杜撰であったという共通点がある。
公文書管理が杜撰な原因は、官僚制のあり方そのものにある。文書をきちんと作らない、残さないという慣行が根付いてしまっている。また、官僚は他の政治勢力より優位に立つため情報を独占しようとする。自分たちにとって有用か否かを判断基準として、文書を残すか決めてきたという歴史がある。このように恣意的に残す文書が選ばれてしまえば、後からの検証は不可能であり、説明責任は果たされない。
2001年の情報公開法施行後は、官僚の「私的メモ」「未完成」という情報公開逃れが横行した。この事態を打開するため、2011年に公文書管理法が施行された。しかし、同法は正しく理解されていない。組織共用性を狭義に解釈することで、行政文書該当性を否定する態度は未だ残っているし、政策決定過程がわかる文書を作成する義務を課した第4条は軽視されている。
国民は、情報公開請求を活用し、官僚の情報の独占に対抗しなければならない。国民に正しく情報が供給され、政策決定のプロセスが可視化されることで民主主義は機能するのだ。もっとも、本来的には行政が自発的に情報を開示することが望ましい。ウェブサイトの活用などその片鱗はあるが、まだまだ十分ではない。一方、情報公開法により文書の開示が権利として認められたことの裏返しとして、文書が存在しなければ「不存在」として開示を免れることから、とにかく文書を作らない、捨てるというインセンティブが働いてしまったことも事実である。
瀬畑氏は、歴史の検証のためには、重要な文書を管理する仕組みとそれを公開する仕組みの両方を充実させることが必要不可欠であるとの言葉で講演を締めた。
対談
コーディネーターを新海聡会員が務め、瀬畑氏と森田弁護士の対談を行った。
森田弁護士は、情報公開・個人情報保護審査会では、開示不開示の判断に留まらず、請求文書の特定や文書の存否についても判断することがあると述べ、審査会の役割や「行政文書」に該当するかの限界事例の答申を紹介した。
対談では、電子情報についての議論が特に盛り上がった。森田弁護士は、電子決裁のない電磁的記録の取扱いが現場の担当者の判断に委ねられていることを問題とする答申や電子メールの行政文書該当性を肯定した裁判例(大阪高裁平成29年9月22日判決)を紹介した。瀬畑氏は、SNS上でのやり取りを文書とすることの困難さや電子文書の改ざんの容易さについて指摘した。
その他、公文書管理条例、諸外国との比較など多岐にわたる議論がされた。
おわりに
冒頭で触れた文書改ざん発覚前であったが、80名近くが参加した。平成30年度、当委員会は公文書管理に関する問題を中心に扱っていく。