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真の「働き方改革」 -実効性ある長時間労働の是正のために-

労働シンポジウム
真の「働き方改革」 -実効性ある長時間労働の是正のために-

会報「SOPHIA」 平成30年3月号より

貧困問題・多重債務対策本部 委員
本 多 朱 里

1 はじめに
 2月24日、愛知大学車道キャンパスにて、「真の『働き方改革』-実効性ある長時間労働の是正のために-」と題した労働シンポジウムが開催されました。


2 第1部
 まず、過労死で労災認定されたNHK記者の遺族より、「裁量労働制は長時間労働を助長する」「国は働く人の命と健康を守ってほしい」等の訴えがありました。
 次に、日弁連貧困問題対策本部中村和雄弁護士より、労働時間是正に関する日弁連の取組について紹介がなされました。
 その後、日本労働弁護団幹事長棗一郎弁護士(第二東京)より、「政府主導の『働き方改革』の問題点-労働時間を中心に-」と題しご講演いただきました。
 講演の中では、政府が主導している働き方改革推進法案の問題点として、改正の趣旨目的が異なる8つの法案を個別に審議せず一括法案としていること、同法案の時間外労働の上限規制には臨時的な特例が認められており(制度上は年間960時間もの時間外・休日労働が可能)いわゆる過労死ラインに匹敵するものであること、高度プロフェッショナル制度で過労死が増加するおそれがあること等が挙げられました。


3 第2部 パネルディスカッション
 第2部では、棗弁護士に加え、大和ハウス工業株式会社経営管理本部執行役員人事部長の能村盛隆氏、元連合総研副所長の龍井葉二氏をパネリストに迎え、お話しいただきました。
 まず、能村氏から、大和ハウス工業株式会社で取り組まれている働き方改革についてご紹介いただきました。
 同社では、生産性の向上と従業員が働きやすい職場づくりの観点から長年にわたり労務管理の改善に取り組んでおられ、これまで未払残業を撲滅するために「外勤者(営業・工事)のみなし労働時間制の廃止」「労働時間実態調査」等を行っているそうです。また、長時間労働の改善のために「原則として事務所閉鎖時間を21時とする制度」「社内の各事業所への是正指導」等を行い、他にも「有給休暇取得促進制度」を導入しているとのことです。労働生産性の捉え方についても、従前同社では労働時間を考慮せず社員一人当たりが生み出す利益と捉えていましたが、現在ではそれに加えて、社員が労働1時間当たりに生み出す利益と捉える考え方も取り入れたとのことです。 
 続いて、龍井氏から「かえせ☆生活時間プロジェクト」のご紹介をいただきました。
 このプロジェクトは、長時間労働問題を、従来行われてきた労働者側から見た「労働時間短縮」という視点からではなく、家族・地域・社会で生活する「生活者」側から見た「生活時間確保」という視点から捉え直そうというプロジェクトです。
 このプロジェクトでは、地域等で生活時間について考える場作りをして運動を広め、今後「1日の労働時間の上限規制(1日10時間)」、「残業時間の精算を賃金でなく休日で行う制度」「残業なしで生活できる賃金の保証」等の実現を求めていくとのことです。
 その後、参加者からの質問・意見をもとに活発な意見交換をしていただきました。


4 所感
 今後も働き方改革推進法案の動向に注視し、真の働き方改革の実現に向けた努力が必要だと感じました。