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日系四世の受入れに関する新制度について
会報「SOPHIA」 平成30年4月号より
会 員 永 井 康 之
3月30日、法務省は日系四世の更なる受入れ制度のために告示改正を行った。この新制度は同年7月1日に施行される。当職は2015年からブラジル・サンパウロの国外就労者情報援護センターの専務理事として、日系四世問題に取り組んできた。本稿では新制度導入の経緯とその内容を解説する。
1 日系人受入れの現状
1908年以降ブラジルには約26万人の日本人が移住し、現在は6世まで約190万人の日系人が暮らしている。
1990年の入管法改正で「定住者」の在留資格が創設され、日系三世が日本で暮らせるようになった。当時ブラジルはハイパーインフレで、在日ブラジル人の数は当初2年で10万人以上増加した。その後も増加は続き、2007年末には31万6967人に達した。
しかし、2008年のリーマンショックによって大量のブラジル人が職を失って帰国することになり、在日ブラジル人の数は2015年までに17万5351人まで減少した。
ただ、日本の人手不足とブラジルの不況によって、2016年以降再び訪日就労者が増加し、在日ブラジル人の数は再び増加に転じた。
現在日本には約19万人の在日ブラジル人と約5万人の日伯二重国籍者が暮らしている。
2 新制度導入の経緯
ブラジル日系社会は、2016年6月、当時の梅田邦夫駐ブラジル大使に日系四世に三世と同様の在留資格を求める要望書を提出した。
その背景には日伯の人の移動がなくなって交流が絶えていくことへの不安、同じ日系人に格差があることの不平等感、リーマンショックのときに親と共に帰国せざるを得なかった日本を母国とする四世の存在がある。最近の訪日就労者の増加によって、親は日本に戻ったが自分は成人した四世であるため行けないという若者も多い。
2016年10月には海外日系人大会で日系四世の在留資格に配慮を求める大会宣言が決議され、2017年2月の衆議院予算委員会における安倍晋三総理大臣の前向きな答弁を契機に日本政府も四世受入れに向けた検討を開始した。
3 新制度の概要
新制度は年間4000人程度の18歳以上30歳以下の日系四世を受け入れるもので、犯罪歴がないこと、日本語能力試験N4程度の日本語能力、家族不帯同などの要件が付され、最長で5年日本に滞在可能である。
渡航に当たっては個人又は団体の日系四世受入れサポーターが四世のために在留資格認定証明書交付申請手続を行って四世を呼び寄せる。来日後2年を超えて在留するためには日本語能力試験N3程度の能力が要求される。
なお、医療保険に加入していることという要件もあるが、これは公的保険への加入誓約書によって満たされるようである。また、5年間の滞在期間中に他の在留資格要件を満たした場合は在留資格を変更できる。
4 今後の見通し
家族が日本で暮らす四世がこの制度で訪日した場合には定住者などの在留資格にスムーズに切り替えられることが期待される。
一方で日系四世受入れサポーターは日系四世を保護するために設けられたものではあるが、訪日就労した四世がサポーターとなった雇用主に拘束されることで劣悪な環境下での就労をやむなくさせられる懸念がある。
今後も運用状況を見守りつつ、より良い制度に改定がなされていくよう提言を続けたい。