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障害者差別解消法学習会

会報「SOPHIA」 平成28年12月号より

高齢者・障害者総合支援センター運営委員会 第三部会 部会員 山 本 律 宗

日時 12月8日 15:00~17:00
場所 弁護士会館5階ホール
講師 杉山 有沙 氏(早稲田大学社会科学部助教)

1 4月1日より「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(障害者差別解消法)が施行され、愛知県においては、「愛知県障害者差別解消推進条例」も施行されるに至っている。
 今回の学習会は、障害者差別解消法が制定される過程において、参考とされたイギリスの2010年平等法に流れる法理を学び、障害者差別解消法の定める「差別的取扱い」や「合理的配慮の提供」に対する基本的な考え方や見識を深めることを目的として行われた。


2 2010年平等法は、障害者だけでなくLGBTや妊娠・出産、宗教・信条などの9つを理由とした労働、不動産取引、教育などの包括的な場面における差別、ハラスメント、報復的取扱いを禁止し、社会経済的不利益の結果として生じる不平等を緩和・解消すべく、平等促進について規定する法律である。
 イギリスにおいて当該平等法が制定されるに至る道は実に険しいものであった。イギリスでは、障害者差別に対する問題意識は、比較的早い時期から認識されており、1979年1月に当時政権を担っていた労働党が「障害者に対する制約に関する委員会」を設置し、差別禁止立法の制定を目指したのが始まりである。
 その後、障害者差別禁止立法の制定を巡っては、差別禁止立法の導入を目指す労働党と福祉財政を縮減したい保守党との間で15年という長きにわたる闘いが繰り広げられた。この闘いに終止符が打たれ、障害者差別禁止立法の導入に至るわけであるが、終止符が打たれた背景には障害者運動の存在があった。


3 障害者差別禁止立法の導入に際して、重要な役割を担った障害者運動であるが、その障害者運動に影響を与えたものとして、「障害」の捉え方に対する転換があった。その転換とは、「医学モデル」から「社会モデル」への転換である。すなわち、「医学モデル」は、障害者が被る不利益は、障害者自身の個人的な悲劇であり、障害者自身が社会に合うように変わることを求める。一方、「社会モデル」は、確かに障害者には身体的・知的・精神的機能障害の結果として不利益が生じているが、そもそも障害者の存在を考慮して社会体制を構築していればそのような不利益を受けずに済んだのであるから、障害者の存在を考慮せず体制を構築した社会に対し、障害者に合わせるように変わることを求める。そして、「医学モデル」から「社会モデル」への転換がなされた結果、障害者が他者依存的な存在ではなく主体者として生きるためには差別を是正することが必要であると認識されるようになり、障害者差別禁止立法の導入に向けた障害者運動の原動力となったのである。


4 2010年平等法は、障害者差別に関し、直接差別だけではなく、起因差別、間接差別及び合理的配慮義務の不履行を禁止している。特に、着目したいのは、要請された合理的配慮が使用者に重大で相当程度の影響を及ぼす場合であっても合理的配慮義務の不履行が正当化されることがない点である。
 障害者差別解消法は、2010年平等法を参考に制定されたという過程からすれば、障害者差別解消法にいう障害者差別の禁止が直接差別に限定される必要はなく、また、合理的配慮義務の不履行が正当化されるのは極めて限定された場合のみと解すべきであろう。