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被災者の思いに応える~ADRで大災害時のトラブル解決~

会報「SOPHIA」 平成29年12月号より


紛争解決センター運営委員会 委員 増 田 卓 司


1 予想される南海トラフ地震などの大災害
 平成23年3月に東日本大震災が、平成28年4月には熊本地震が起きました。また、今年平成29年7月には九州北部豪雨が起きるなど、大規模な自然災害が頻発しています。私たちが住む愛知県でも、今後30年以内にマグニチュード8~9クラスの「南海トラフ地震」が70%の確率で起きると予想されています。


2 ともに被災者-その思いは
 思いがけない大地震で賃貸借家屋が倒壊した。隣の境界塀が倒れて停めていた自動車が壊れた。大災害を起因とする法的トラブルは、当事者双方が被災者という特殊性があります。また、避難生活が長期化することや生活再建の見通しが立たないことへのストレス、家族関係が壊れることもあります。そんな状態から早く解放されて前に進みたい、というのが被災者共通の思いでしょう。


3 被災者の思いに応えるADR
 裁判外紛争解決手続(ADR)、とりわけ民間ADRは、身近なトラブルを柔軟な手続で迅速に解決できる点に特徴がありますが、大震災を経験した弁護士会は、被災者の思いに応え、経済的にも支えるための工夫を重ねて来ました。
(1) 仙台弁護士会は、東日本大震災の1か月後に「震災ADR」を立ち上げました。①申立サポート弁護士(申立書を作成する余裕のない被災者のため、弁護士が紛争内容を電話で聞き取って申立書を作成する)、②申立手数料免除、③成立手数料半額、④あっせん人弁護士報酬の減額など、被災者が利用しやすい制度設計です。
 震災前年の申立件数は81件でしたが、平成23年度は一般事件を含め490件、平成24年度も177件と飛躍的に増えました。
(2) 熊本県弁護士会も、仙台の経験を活かし、震災2か月後に「震災ADR」をスタートさせました。申立ての相手方を支援する応諾サポート弁護士制度も設けました。
 震災前年の申立件数は2件でしたが、平成28年度の受理件数は86件でした。
(3) 大災害が起きたときに備えるため、東京三会、札幌、福岡県などの弁護士会でも「災害ADR」が設置されています。


4 当会が構想する災害ADR
 当会が設置を検討中の「災害ADR」の概要は以下のとおりです。
(1) 対象地域と災害
 愛知県内で発生した大規模な自然災害のうち、会長が指定した災害が対象。
(2) 制度設計
ア 申立サポート弁護士(無償)-被災者が、①申立人、②相手方、③紛争類型のみを記載した申立書を事務局にFAXあるいは電話連絡し、あとは弁護士が引き取って申立書を作成。
イ 申立手数料-免除
ウ 成立手数料-半額に減額
エ あっせん人成立報酬-8万円から5万円に減額


5 長期的視野で
 「災害ADR」への申立ては、比較的小規模な事件が多く、一時的に手数料収入が減少するかも知れません。しかし、公益的な活動を担い、これまで民間ADRをリードしてきた当会は、身を切ってでも設置しなければならないと考えます。災害ADRの実績を積むことにより、当会のADRに対する信頼性が一層強まり、一般ADRの利用増に繋がる可能性があります。長期的視野で災害ADRを捉えることが必要です。