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あらためて問う『犯罪被害者の権利』とは
  ~誰もが等しく充実した支援を受けられる社会へ~

シンポジウム第1分科会
あらためて問う『犯罪被害者の権利』とは
  ~誰もが等しく充実した支援を受けられる社会へ~

会報「SOPHIA」 平成29年10月号より

犯罪被害者支援委員会 副委員長 塚 田 聡 子

1 10月5日、人権擁護大会シンポジウムの第1分科会で、「あらためて問う『犯罪被害者の権利』とは~誰もが等しく充実した支援を受けられる社会へ~」と題し、現時点における犯罪被害者支援の到達点とともに、これから目指すべき支援のあり方が議論されました。

2 第1部 「犯罪被害者支援施策のこれまでの歩みと現状における問題点」

 まず、被害者支援の発展の経緯として、1995年の地下鉄サリン事件をきっかけに被害者支援の必要性が認識され、2000年5月に犯罪被害者保護二法が、2004年12月に犯罪被害者等基本法が成立し、2005年12月に第一次基本計画が策定され、2007年6月の刑事訴訟法等の改正により被害者参加や損害賠償命令が認められた、との説明がありました。
 このなかで、犯罪被害者等基本法が、犯罪被害者は「個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利」を有すると宣言し(第3条)、被害者が権利の主体であることを明確にしたことが被害者支援の原点である、との話が心に残りました。
 その後、2011年3月の第2次基本計画、2016年4月の第3次基本計画では、被害者支援に一定の前進が認められたものの、それまでと比較すればやや停滞していると評価せざるを得ないとの指摘がありました。では、今後、どういう支援を充実させなければならないかとの観点から、犯罪被害者の生の声が紹介されました。犯罪被害者に対する損害賠償金を国が立て替える制度、国が被害者に代わり損害賠償金を取り立てる制度、損害賠償請求権の消滅時効期間の延長、医療費や家事援助等の現物支給、被害直後からの公費による弁護士費用援助、被害を受けたときの一元的窓口などが切実に求められていることが明らかになりました。被害者自身の声に耳を傾けることで、何が求められているかを常に意識し続けることが大切であると思いました。

3 第2部 「犯罪被害者等支援条例の重要性」

 犯罪被害者等支援条例の必要性やメリットとして、地方公共団体の責務が明文化されること、職員配置や研修に予算が付くこと、担当者の交替に影響されずに支援が継続されることが挙げられました。条例の制定により、犯罪被害者という存在や支援の必要性が住民に周知され、「他人ごとではなく我がこと」になるという重要な効果があることも知りました。誰もが犯罪被害者になり得る社会において、このような意識を住民が持つことが、被害者の安心感につながると思います。
 具体例として、総社市、神奈川県、明石市の条例が紹介されました。明石市の条例により、被害者が加害者に対する損害賠償請求権の債務名義を取得した場合に、市によって立替金の支給が行われている、という点が印象に残りました。国が未だに実現できない制度を、地方公共団体だからこそ実現できるいうのも、条例の大きなメリットではないかと思われます。
 犯罪被害者等基本法の第5条には「地方公共団体は、・・・地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する」と規定され、各自治体には条例の制定が求められていますが、実際に成立しているのは一部の自治体にとどまります。他の自治体でもぜひ成立して欲しいと感じました。

4 第3部 「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの現状と課題」

 まず、ワンストップ支援センター(性犯罪・性暴力被害者が、可能な限り1か所で、医療支援、心理的支援、捜査関連支援、法的支援等を受けることができる機関)の現状と課題が報告されました。
 国は、2020年までに、各都道府県に最低1か所のワンストップ支援センターを設置するという目標を立てています。しかし、未設置の県も複数あり、設置されている県についても、緊急避妊や証拠採取のために最も望ましいとされる病院拠点型のセンターは、わずか15%に止まります。センター設置に伴い施設利用料や人件費等の経済的負担が発生するのに、国からの財政的援助がほとんどなく、病院が引き受けたがらないことが理由です。
 国が財政的援助を行わないことは、人材不足も招いています。センターを支える支援員の賃金等は低く、その一方で、24時間365日の対応や夜間や緊急の対応が求められるため、人材の確保が困難です。一人一人の負担が増大し、現場の熱意だけでは持ちこたえられない状況に陥っているようです。また、財政的援助がないために、本来被害者に負担させるべきでない医療費、カウンセリング費、法律相談費について、負担を求めざるを得ない場合もあるとのことでした。
 報告の後、おうみ犯罪被害者支援センター、その連携病院、弁護士によるパネルディスカッションが行われました。24時間365日の対応を支援員2人で行っていた時期もあったとの話に驚きました。そのうえ、低賃金で時間外手当もつかないそうです。パネラーの1人が「支援の質は支援員の生活の質に対応する」と発言し、財政的援助の必要性を訴えていたのに強く共感しました。

5 第4部 「北欧諸国の犯罪被害者支援制度の概要」

 ノルウェー、スウェーデンには、犯罪被害者庁があり、被害者支援を一元的に行っていることが紹介されました。これらの国では、①被害者に代わり、国が加害者に直接請求することにより、被害者への補償を行うという制度、②加害者らから一定の金員を徴収して犯罪被害者支援の基金とし、犯罪被害者支援団体への援助に充てるという制度が採られており、犯罪被害者庁と、加害者からの取立てを行う回収庁(強制執行庁)が大きな役割を果たしているそうです。

6 第5部 「あらためて問う『犯罪被害者の権利』とは」

 各界で長年犯罪被害者支援に取り組んできたパネリストによる、パネルディスカッションが行われ、日本における犯罪被害者庁設立について議論が交わされました。犯罪被害者庁を設立し、①犯罪被害者に代わり加害者から取立てをすることにより被害の補償をする、 ②犯罪被害者支援の基金を作って管理する、③犯罪被害者の情報の収集・伝達を行う、という役割を担わせるべきという提言がなされました。他方で、犯罪被害者庁の設立には、財源や人材の確保という高いハードルがあるという問題点も指摘されました。
 これらのハードルを越えて犯罪被害者庁を設立するには、国民の理解が不可欠です。北欧諸国で犯罪被害者庁の設立が可能であったのは、国民の中に「被害者も国民の一人なのだから国が支えるのは当然」という意識が根付いていることが、大きく影響しているようです。国民に広く被害者のことを知ってもらうための広報・啓発活動も重要であると感じました。

7 終わりに

 犯罪被害者支援に携わるなかで、多くの被害者が損害を回復できず、それどころか弁護士費用等も自己負担を強いられるという現状に疑問を感じていました。被害者が、当たり前の「権利」として、十分な支援を受けられる日が来ることを願ってやみません。