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中高生向け模擬裁判 その時計、いただきます。~マダムが起こしたひと騒動~

会報「SOPHIA」 平成29年8月号より

法教育委員会 サマースクール部会 中高生模擬裁判チーム長

木 下 智 靖

 8月4日、サマースクールのフィナーレとなる中高生向け模擬裁判が開催されました。
 模擬裁判の内容は、以下のとおりです。
 テレビでお馴染みのセレブである反面黒い噂もある被告人(女性)は、お祭り大好き男の被害者にお金を貸すも、被害者と連絡が取れなくなっていました。ある日、被告人が男性2名と歩いていると、偶然路上で被害者を発見。当初は円満に話していたものの、貸金の話になり、最後には、被告人が被害者から身に着けていた大切な時計を受け取りました。その後、被告人は、「臓器でもなんでも売ってこい、業者を紹介する」「コンクリートと一緒にダムに沈める」と脅迫し、被害者の左肩を手で強く突く暴行をして時計を強取したとして、強盗罪の容疑で逮捕されてしまいました。
 被告人は法廷において、脅迫も暴行もしておらず、時計は被害者から任意に受け取ったもので、無罪だと主張しました。もっとも、被告人は逮捕段階で、警察官から、取調べが終わらないと警察署から出られないとか、認めないと長くなると言われ、間近に迫った自身の誕生日パーティーに出席したいとの思いから、脅迫と暴行はあったと自白しています(本年度の新しい試みとして、模擬裁判劇の途中で、事前に撮影した取調べの様子を録画した動画を観てもらうこととしました)。
 なお、被告人と被害者以外に、被告人と一緒にいた男性2名と、現場付近のマンションのベランダから事件の状況を見聞きしていた元アイドルの男性が登場します。男性2名の素性は不明で法廷にも出廷していません。元アイドルの男性は証人として出廷しますが、思い込みが激しいという人物設定でした。
 本年度、中高生に検討してもらった論点は、①そもそも脅迫・暴行はあったか、②脅迫・暴行があった場合、現場の状況を踏まえて反抗を抑圧する程度といえるか、③自白に任意性はあるかの3点です。評議の時間が限られるため、罪名は強盗罪、恐喝罪、無罪のいずれかの成否に限定して検討してもらいました。
 脅迫と暴行の有無については、被告人と被害者の供述の信用性を中心に議論がなされました。もっとも、それ以外にも、思い込みの激しい目撃者であっても、被害者と供述が一致する部分は信用できる等、多角的な検討をする生徒も多くいました。脅迫と暴行の程度については、脅迫文言や暴行自体の強弱にとどまらず、被告人と一緒にいた男性の人物像、周辺状況、被告人の声の大きさ等、様々な要素を検討した上で、反抗を抑圧する程度であったのかを判断していました。自白動画についても、自白を鵜呑みにすることなく、慎重に検討がなされ、警察官による自白誘導が強い部分とそうでない部分を分けて検討する等、評議の担当者としては、ここまで考えることができるのかと驚かされると同時に、非常に頼もしく感じました。
 評議後に各グループ発表をしたところ、結論が分かれました。また、他人の意見を聞いて結論が変わったという生徒も多数いました。わずか1日の中高生向け模擬裁判ではありますが、中高生には他人の意見を聞いて考えることの重要性に気がついてもらえたのではないかと思います。

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