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「女性活躍」と「出産」 両立を目指して

中部経済新聞2017年9月掲載
「女性活躍」と「出産」 両立を目指して

 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(以下「女性活躍推進法」)が平成28年4月に施行されてから一年半以上が経過した。

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「男女雇用機会均等法」)が施行されてから30年以上が経過しているが、就業を希望しているものの育児・介護等を理由に働いていない女性は約300万人に上り、第一子出産を機に約6割の女性が離職する。世界経済フォーラムによる2016年版「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数」では、調査対象144カ国のうち、日本は111位と、先進国最低の水準。それが我が国の現状である。

 平成16年版男女共同参画白書には、「均等法第一世代の女性の未来観」とのコラムがある。このコラムは、平成16年1月に実施された、均等法第一世代(男女雇用期間均等法が施行された直後に総合職として就職した世代)の男女と国の審議会委員を対象に行われた男女共同参画社会の将来像についてのアンケート結果をもとに、「2020年ころに想定される雇用・就労の状況」についての、均等法第一世代の女性達の予測と、国の審議会等委員との予測が比較されている。

 この比較では、例えば、「2割以上の男性が育児休業をとるようになる」と予測する者が審議会等委員では34.1%であるのに対し、均等法第一世代の女性達は15.4%である等、総じて、均等法第一世代の女性達は、男女共同参画に関する未来の雇用環境について、国の審議会等委員より厳しい見方をしている。 

 2016年度の男性の育児休業取得率は、「3.16%で過去最高」であり、均等法第一世代の女性達の悲観的な予測は、おそらく的中するであろう。

 アンケートに回答した均等法第一世代の女性91名のうち、既婚者は46名(50.5%)、子どもがいない者は64人(70.3%)。「仕事が継続できた理由として最も重要だったこと」については、既婚者の17.4%が「子どもがいなかった」と回答し、未婚者については、「独身であったこと」が50.0%と突出して多い。

 女性が基幹的業務を行うことと、育児を両立することの厳しさ、「女性の職業生活における活躍」が子どもをもうけることとの天秤にかけられがちな実態が浮き彫りになる回答である。

 自身の個性や能力を職業生活において発揮することと、家庭を築き子どもをもうけること。人間の幸福追求にとっていずれも極めて重要な事柄である。

 子どもを持たないで、職業生活において活躍した女性達も、心の底から「産まない選択」ができた女性ばかりではあるまい。

 もう少し環境が整えば、子どもをもうけたいとの希望も持ちながらも、産む選択ができずにいるうちに、時間の経過により、産む選択ができなくなってしまった女性達も多く、いるであろう。

 女性活躍を本気で求めるのであれば、責任が重く、代替性の乏しい仕事と、働き盛りの時期とも重なる妊娠出産育児との、現実的な両立のための環境整備が必要である。

女性活躍推進法の目的には、急速な少子高齢化への対応も含まれるが、一人の女性がその人生において複数回、妊娠・出産することと、職業生活で活躍することが両立できないのでは、社会は縮小の一途を辿る。

 産む選択や第二子以降をもうける選択に踏み切れないのには、安心して子どもを「預け続けられる」保障がないことが大きい。

 子どもは授かり物であり、女性の努力だけで授かる時期を決められるものではない。 

 しかし、現状では、年度代わりの時期でなければ保育園に入るのは困難である上、低月齢の乳児を受け入れている保育園も少ない。そのため、職場に復帰したい時期に子どもを保育園に入れるために、入園時の子どもの月齢を計算する「妊活」段階からの「保活」が必要とまでいわれている。産み月を計算した上での妊活が幸運にも成功し、なんとか保育園に入れたとしても、第二子について育児休業を取得すれば、第一子の退園を迫られるかもしれない。入れた保育園が3歳未満児のみを対象とする園であれば、3歳の壁に当たるかもしれない。乳幼児の時期を乗り切ったと思っても、学童保育にも待機児童問題がある...といった状況では、職業生活で活躍したい、という人として自然な希望も持つ女性達が、子どもをもうけることや、第二子以降をもうけることに踏み切れないのも無理はない。

 「いつ産んでも、何人産んでもなんとかなる、社会全体で育児を支援してもらえる。子どもを安心して預けられる保育の場が途切れることはない。」

 そう信頼できる環境を、国が十分な予算をかけて整備することが根本である。 

 2030年ころの雇用・就労の状況や保育の状況は、「産まないとは決めていない」職業生活でも活躍したい女性達が、前向きに妊娠出産に踏み切れるものになっているだろうか。