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早期事業再生のすすめ
中部経済新聞令和7年8月掲載
愛知県弁護士会 弁護士 久保田理貴
2025年上半期の中部9県における企業の倒産件数が、前年同期と比べて8.1%増加しています。また、中小事業者の収益力改善・再生支援・再チャレンジ支援を行う中小企業活性化協議会の昨年度の相談件数も前年度比で29%増加しており、より経営状況の厳しい事業者に対する円滑な廃業や保証債務の整理などの助言等を行う「再チャレンジ支援」も大幅に増加しています。これらの傾向から、為替の変動による原材料価格の高騰や人件費の増加などの要因により、事業再生が困難な中小事業者が増加していることが分かります。
また、いわゆるトランプ関税が日本経済に与える影響については不透明であるものの、トランプ政権以前と比較した関税負担は大きくなっており、企業の事業再生への取り組みは引き続き重要な課題となっています。
このような状況の中、経済産業省、金融庁および財務省は2025年3月17日付けで「再生・再チャレンジ支援円滑化パッケージ」を公表し、早期に必要な支援を提供できる体制の強化を打ち出しています。また、第217回通常国会において「円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律」(早期事業再生法)が成立しました。同法は、裁判所の関与の下、多数決原理による私的整理を可能とするもので、事業再生スキームの新たな選択肢を提供するものです。
もっとも、制度や支援策が整備されるだけでは十分ではありません。重要なことは、事業者自身が経営状況を冷静に見つめ、早期に事業再生に取り組むことです。なぜなら、経営状況が深刻に悪化してからでは、事業再生に当たって採り得る選択肢が限られてしまうためです。例えば、過剰な借入により資金繰りが厳しくなっているものの、事業性が認められる場合には、金融機関に対する返済を延期(リスケ)したうえで、事業再生計画を作成し、実行することにより、事業再生が可能となるかもしれません。ところが、事業再生への着手が遅れてしまい、リスケをしたとしても資金繰りが持たないほど事業が毀損してしまうと、廃業を選択せざるを得ないこともあります。実際の事業再生支援の現場でも、「もう少し早く相談していれば、別の選択肢があったのに」といった事例は少なくありません。
事業再生は、単に金融機関への返済の極大化を図るだけのものではなく、雇用の維持や地域経済の安定など、社会的に大きな意義を持つものです。そのため、早期の事業再生への取り組みは事業者の社会的な責務ともいえます。事業者が適時・適切な事業再生への意識を強く持つことが、雇用の維持や地域経済の持続的な発展につながると信じています。

