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組織内弁護士の可能性と広がり

中部経済新聞令和7年6月掲載

愛知県弁護士会 弁護士 谷藤 研

 組織の中で働く弁護士と聞いてどのような姿を思い浮かべるでしょうか。企業や行政機関などの組織の中で働く弁護士を組織内弁護士といいます。裁判所に立つ代わりに、社内の会議室で経営課題の議論に加わり、法律の観点から助言し意思決定を支える、企業や官公庁といった組織の一員として活躍する弁護士の役割は、近年ますます重要性を増しています。

 組織内弁護士の数は年々増加しており、現在国内では3,000人以上に達しています。この増加は、専門的な知識や経験を有する弁護士を組織内部に持つことで、迅速かつ戦略的な対応を可能にするという期待の表れと考えられます。

 かつての企業法務は、契約書の審査や訴訟対応といった「守りの法務」と言われる業務が中心でした。しかし、現在では、意思決定段階から法務が関与し、経営戦略の策定やリスク評価、新規事業や海外展開の支援まで多岐にわたる「攻めの法務」が求められています。加えて、ガバナンスやサステナビリティ、AIの利活用など新たなテーマに取り組む機会も増えています。また、組織内弁護士は、法律の専門家であると同時に、社内外の関係者と信頼関係を築き、現実的な対応策を模索する「橋渡し役」でもあります。形式的な法解釈だけでなく、実情に即した解決策を共に考えることが、その真価といえるでしょう。

 こうした動きは、民間企業に限ったものではありません。行政機関においても、任期付公務員として弁護士が活躍する場面が増えており、政策立案や法令審査の現場で法的な視点を提供しています。規制改革やAI、セキュリティといった高度な課題に対し、法曹資格者が議論に参画することで、行政の質的向上にも寄与しています。

 このような中、愛知県弁護士会では、「組織内弁護士に関するプロジェクトチーム」が設置されています。組織内弁護士の現状や課題を把握し、研修や意見交換の機会の充実などについて検討が進められており、組織内で働く弁護士と法律事務所所属の弁護士が互いの立場を理解し、協力し合える環境づくりが模索されています。また、組織内弁護士によって構成される日本組織内弁護士協会(JILA)では、組織内弁護士についての調査研究や、研修やネットワーク形成、普及促進など、さまざまな活動が行われています。

 複雑で不確実性の高い社会の中で、法務機能には、事業や政策の意思決定に貢献し、共に歩むパートナーとしての役割が求められています。そのような中で、リーガルマインドを有する法曹有資格者が、組織の中で果たす役割はますます増加していくと思われます。

(萩原電気ホールディングス株式会社総務・法務部長、日本組織内弁護士協会理事・東海支部長)