愛知県弁護士会トップページ> 愛知県弁護士会とは > ライブラリー > ベトナム司法制度視察旅行

ベトナム司法制度視察旅行

会報「SOPHIA」 平成29年6月号より

国際委員会 委員長 中川 真吾  同 委員 下田 幸輝

1 5月20日から24日までの日程で、ベトナム司法制度視察旅行が実施された。 最高人民裁判所、司法省及びベトナム弁護士連合会への表敬訪問に加えて、地方裁判所での裁判傍聴や、日本法教育研究センターへの図書寄贈なども行い、非常に実りある視察旅行となった。

2 5月20日、雨期のホーチミン市に到着した私たちは、名古屋大学の元留学生も交えて、中心街でベトナム料理を楽しんだ。ちょうど建国の父ホー・チ・ミンの誕生日翌日であったため、夜遅くまで街中には音楽が流れ、あたかも現在のベトナムの活気を象徴しているようであった。なお、この日が誕生日当日であった私も祝ってもらった気分となり、ホーチミン市に対する個人的な好感度も上昇した。

3 翌21日、ホーチミン市からハノイへ移動し、JICA長期専門家としてハノイで勤務されている当会の塚原正典会員と合流した。実は当会は4年前の2013年にもベトナム司法制度視察旅行を実施した。塚原会員はその旅行に参加した後に思い立ってJICAの長期専門家となり、すでに3年以上を法整備支援の専門家として過ごしている。ベトナム司法制度の表も裏も知り尽くしている塚原会員からレクチャーを受け、翌日からの各所訪問に備えた。

4 翌22日、まずは司法省を訪問して、司法援助局のダン・キム・ホア副局長と意見交換を行った。 先方の所管業務に合わせて、意見交換のテーマは主に「弁護士に対する管理」に関して行われた。詳細は割愛するものの、弁護士自治の有難みを改めて認識した次第であった。

ベトナム1.jpg

【司法省での意見交換】

5 司法省の後はハノイから車で1時間30分くらい離れた工業団地内の日本企業を訪問した。人材の採用状況などについて生の声を聞くことができ、非常に勉強になった。そして、再びハノイへ戻り、ベトナム弁護士連合会を表敬訪問した。渋滞等の影響で開始時刻が予定より1時間近く遅れての訪問となったが、同連合会のドー・ゴック・ティン会長が快く応対していただいた。色々な話題がでたものの、一番印象的だったのは、マレーシアの空港で殺害された金正男氏の事件に関する話題であった。この事件では、ベトナム人の女性が裁判を受けているところ、この女性の家族の依頼を受けて、同連合会がマレーシアの弁護士会を通じて、刑事事件に精通した弁護士を探すことができたそうである。

6 近年、日本に在留するベトナム人の数は増加の一途をたどっている。今回のような交流は、単なる社交にとどまらず、上記のベトナム人女性の事件のような具体的な事件における人権擁護活動にもつながることが改めて認識できた。(中川)

7 23日の視察は、ハノイ市内にあるロンビエン地方裁判所での裁判傍聴から始まった。法廷は天井が高く、ドアは開け放たれており、非常に風通しが良いのが印象的だった。 傍聴したのは刑事裁判手続で、罪名は覚せい剤違法所持だった。被告人本人のほか裁判官、民間人から選任された人民参審員2名、検察官、書記官が出席していた。被告人に弁護人はついていなかった。ベトナムでは検察官の地位が高く、検察官も裁判官と同じ壇上に座っていた。また、民事裁判にも検察官が出廷し裁判が適切に行われているかを監督するとのことだった。裁判所からの人定質問の後、検察官による起訴状の朗読、裁判官から被告人に対する質問へと続いた。裁判官からの質問が終わると検察官からも質問があり、最後に検察官が刑についての意見を述べて、法廷での審理が終了した。その後、裁判官と人民参審員が一度退廷して別室で評議をし、15分ほど経った後再び入廷し判決を言い渡した。判決内容は、有罪として懲役刑を命じつつも、反省した態度に免じて刑を免除するというものだった。刑の執行を猶予するのではなく、免除してしまうことに少し驚いた。

8 午後からは、最高人民裁判所を訪問した。 ベトナムの裁判所は、以前は3段階(最高人民裁判所、省レベルの裁判所、郡レベルの裁判所)だったが、今は最高人民裁判所の下に高等裁判所ができ4段階になったとのことだった。 そして、裁判業務の多くが高等裁判所に移されたため、最高人民裁判所の主な役割は法律の適用の統一に向けた指導や判例の取りまとめ等になり、100名以上いた裁判官も現在は16名になっているとのことだった。最高人民裁判所の裁判官16名のうち女性は4名とのことだった。

ベトナム2.jpg

【最高人民裁判所にて記念撮影】

9 最後に、ハノイ法科大学にある日本法教育研究センターを訪問した。同センターは名古屋大学とハノイ法科大学の協定により設置された教育研究機関で、ハノイ法科大学の1年次から4年次に在籍する学部生が所属し日本語と日本法を勉強している。最近では日本からの中小企業の進出に伴い、日本語ができる現地人材についての問い合わせが増えているとのことだった。構内を案内していただいた後、有志で持ち寄った日本の法律書を贈呈し、同センターを後にした。

ベトナム3.jpg

【日本法教育研究センターにて法律書の贈呈】

10 今回の視察旅行は行き先が社会主義の国であったこともあり、法制度の違いが様々な箇所で見られ、驚きの連続だった。 (下田)