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シンポジウム「日本で育った子どもの在留の保護~子どもの入管手続き、在留資格のない子どもの在留特別許可~」が開催されました
会報「SOPHIA」令和6年5月号より
人権擁護委員会 委員
河 野 優 子
1 2月18日、当会会館5階ホールにおいて、日本で育った子どもの在留資格の更新や変更のあり方および在留特別許可や再審情願のあり方について考える、標記シンポジウムが開催されました(Zoom併用)。
2 シンポジウムでは、まず初めに、入管手続の概要説明があり、親の離婚や失業等をきっかけに在留資格を失ったり、在留資格がない親のもとに生まれたりするなど、子どもや若者が在留資格のない状態で暮らすケースの背景について共有されました。
続いて、日本で育った子どもや若者の権利利益が問題となる場合の入管手続について、多角的な視点から検討すべく、登壇者の方々から講演がありました。
まず、大谷美紀子弁護士(東京)・国連子どもの権利委員会委員から、「子どもの権利条約と入管行政」についてお話がありました。子どもの権利条約3条1項が、子どもに関する全ての措置において、子どもの最善の利益が他の利益よりも高い優先順位をもって考慮されることを規定しており、入管手続も全ての措置に含まれること、締約国による条約実施のための指針である一般的意見のうち、国際的移住の文脈における子どもの人権に関する22号および23号が、入管手続きにおいても子どもの保護に関する機関・関係者の役割を重視していること等が共有されました。
次に、鈴木ゆみ氏(臨床心理士・公認心理師)から、移住の強制や家族との分離が、文化的アイデンティティ、愛着(アタッチメント)、ストレス・心的外傷に、どのような影響を及ぼし得るのかについて説明がありました。移動しながら育つ子どもは、複雑なアイデンティティの問いが生まれやすいことや、児童養護施設の外国にルーツのある子どものトラウマ症状に関する研究では、海外在住経験のある子どもの「解離」尺度の値が優位に高かったこと等が共有され、強制移住や家族分離によるメンタルヘルス等への影響について留意する必要が示されました。
そして、日本で生まれ在留資格が無い状態で育ち、再審情願によって在留資格が認められた経験を持つ滝澤ジェロム氏(児童養護施設職員、元非正規滞在者)より、ご自身の経験談や、原則として就労が禁止され健康保険の加入もできないなど、仮放免(入管における収容を仮に解く措置)での生活の困難についてお話がありました。
さらに、自らの非行経験をもとに再非行や再犯を減らすための活動をされている髙坂朝人氏(再非行防止サポートセンター愛知理事長)から、少年院在院者における逆境体験の多さや、少年院の矯正教育を受けて更生する割合の多さについて共有されたのち、少年事件が理由となって在留特別許可を否定され、退去強制令書発付処分を受けた外国籍少年の事例等のお話がありました。
最後に、登壇者4名によるパネルディスカッションが行われました。ディスカッションでは、小学生の時に突然、自宅で入管の摘発を受け、親が入管職員らに取り囲まれているのを目の当たりにしたという滝澤氏の経験に触れ、在留の可否に関する判断はもちろんのこと、判断までの手続についても子どもの利益に配慮した方法をとることの重要性や、意に反した移住や家族分離の強制と子どもや若者の権利利益の関係について、子どもに関わる様々な領域にて検討され、その内容が領域を超えて共有されることの重要性等について話されました。