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ランチタイム勉強会 「ワールドプライド参加報告」
会報「SOPHIA」令和5年10月号より
日時 9月7日 12:00~13:30
場所 Zoom
講師 水谷 陽子 会員
両性の平等に関する委員会
委員長 岡 村 晴 美
1 5月30日、同性婚をめぐる訴訟で名古屋地裁が画期的な違憲判断を下したが、こうした成果は、国内外で性的マイノリティ当事者らが声を上げ続けた積み重ねの上に生まれている。2月にオーストラリアのシドニーで行われた「ワールドプライド」に参加した水谷陽子会員から、現地でのパレードの様子や企業視察等について報告を受けた。
(「PRIDE (R)EVOLUTION History isn't always straight.」というメッセージの書かれた広告表示。後掲4で紹介)
2 「ワールドプライド」は、LGBTを取り巻く問題の可視化と認識を国際レベルで促進することを目的とする国際イベントであり、パレード、マーチ、フェスティバル、人権会議等、お祭りと真面目なプログラムが多岐にわたって開催される。啓発だけでなく、アクティビストたちが経験交流をする場ともなっている。今年は開催都市として、シドニーが選ばれた。
シドニーでは、毎年2~3月に「マルディ・グラ」と呼ばれるLGBTプライドイベントが開催されてきた。始まりは1978年7月であり歴史あるイベントである。始まった当時は、今より、LGBTに対する偏見が強い時代であり、お祭りというよりは、すさまじい偏見との戦いという様相であった。デモ行進に対して、警察が弾圧し、トラック運転手が逮捕されるということもあった。マルディ・グラは、1990年代半ばには、50万人以上集まるオーストラリアの主要観光イベントの一つとしての社会的地位を確立した。
3 ワールドプライドへの旅は、日本からシドニーに向かう飛行機から始まっており、飛行機で見る映画のシリーズにも、「ワールドプライド」というカテゴリーが作られ、LGBTを題材とした映画がずらりと並んでいた。空港に着くと、荷物引き取りカウンターにも、「ワールドプライドへようこそ」という映像が上映されていた。
街は、レインボーカラーで溢れていた。地下鉄のポスター、動く歩道、階段、ビルのライティング、博物館等の公共機関のキャラクターもレインボーフラッグをまとっていた。
シドニーで見かけたレインボーカラーは、日本でもよく使われる6色(赤、橙、黄、緑、青、紫)に加え、人種差別や、トランスジェンダー差別にも抗うという意味を含む、白・ピンク・水色・茶色・黒を加えたものも多用されていた。それぞれの色のもつ意味は、時代が進むたびに多様な意味をもって解釈されるにいたっており、人としての多様なあり方を認めていこうという姿勢そのものということができる。
4 カラフルな広告の中には、メッセージが記されているものもあった。
「PRIDE (R)EVOLUTION History isn't always straight.」という言葉には、「歴史はいつもまっすぐ進むわけじゃない」という意味と「"ストレートの人たち"(性的マイノリティではない人たち)だけのものじゃない」という意味がかかっていた。
バス停の広告には、I AM PROUD TO BE MYSELF AND BE OPEN ABOUT WHO I AM./I AM NOT AFRAID TO LEAD.I AM PROUD TO LIVE OUT LOUD.(リードされること(=暴かれること)を恐れない。誇りを持っているんだ《当事者コミュニティで使われている意味も含めた意訳》)という心強いメッセージが書かれていた。
「多様性って大事だよね」という抽象的でふわっとした言葉ではなく、当事者が何を恐れながら暮らしているのか、何に傷ついてきているのかという現実に根差してメッセージが発信されていた。
5 ボンダイビーチでは、セクシュアルマイノリティに関する1978年以降の歴史をまとめた写真展が開催されていた。激しい差別や偏見を受け命を失った人もおり、亡くなったLGBTのことを忘れないための記念碑が海辺には建てられていた。「警察による犯罪を忘れてはならない」といったメッセージや差別を背景にこの海で亡くなった人たちの名前が刻まれていた。
ここであった悲しい歴史から目を背けない。曖昧にしない。辛い悲しい歴史を忘れない。という強い意思がそこにはあった。
6 企業を訪問し、国際的な企業での取組の説明を聞くこともできた。アボリジニへの差別や弾圧について学ぶチーム、ジェンダー平等を学ぶチーム、障害者差別をなくしていくためのチーム。そのなかの一つとして、LGBTへの差別をなくすチームがあるということだった。日本との違いの大きさに圧倒されるばかりだった。
7 パレードは約2㎞を踊りながら歩くというもので、午後から始まり夜まで続く。今回の報告者である水谷会員は、日本では、名古屋、浜松、東京のパレードに参加したことがあるが、その経験と比較すると、規模や街中の熱気が大きく違った。シドニーのパレードは、かつては抗議行動として始まったが、今では参加者も沿道からの観覧者も大規模な街をあげた一大イベントになっている(フロート数208、出場者数1万2500名、観覧者数約50万名)。シドニー市、教育省、警察等の行政機関もフロート(梯団)を組み参加している。
日本系のフロートは、現地在住日本人を中心とするフロートと日本からこのパレードのためにシドニーへ来た人たちが企画したフロートの2つであった。沿道で観覧する人々にも多様性があった。派手な装いのドラアグクイーンたちがたくさんいると思ったら、その隣に、高齢の人々が車椅子で座って並んでいた。日本では見たことのない景色が2kmにわたり沿道に続いていた。ハッピー マルディ・グラ!
8 オーストラリアでは、弾圧された人のために声を上げることが正しいことだという価値観が共有されていた。植民地支配で原住民族が殺されたり、子どもが奪われたりするなどした歴史がある。それは、決して許されてはいけないことだったという反省があり、どのようなイベントでも始まりには、アボリジニの歴史に敬意を示す言葉が語られる。差別や暴力の加害者となった歴史を直視するからこそ、今、それらをなくすための取組が豊かに展開されているのだとわかった。
9 最後に書籍の紹介を・・・。
より詳しく、ワールドプライドについて知りたいという方は、『すばる』9月号・10月号に記載された李琴峰さんの紀行「虹に彩られる季節(前編・後編)」をお読みいただきたい。
また、愛知では毎年「名古屋レインボープライド」が開催されている。名古屋で暮らしている同性カップルを主人公にした漫画『ふたりでおかしな休日を』(伊藤正臣)では、主人公が名古屋レインボープライドに参加するエピソードがある。