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欧州視察訪問
会報「SOPHIA」令和5年10月号より
国際委員会 委員
社 本 洋 典
1 全体日程
国際委員会の企画にて9月13日から19日までの日程で会員14名でオランダハーグの国際
司法裁判所(ICJ)及び国際刑事裁判所(ICC)、
スイスジュネーブの世界知的所有機関(WIPO)及び国際移住機関(IOM)、並びにフランスパリのパリ弁護士会及びパリ地方裁判所を訪問しました。
2 ICJ訪問
ICJは、国家間の法律的紛争について裁判を行い、また国連総会や国連安保理等の要請に応じて勧告的意見を与える国連機関です。
ICJ訪問では施設を見学後、ICJ唯一の日本人裁判官である岩澤雄司判事と面談しました。
岩澤判事からは様々なお話を聞かせていただきましたが、特に①ICJの裁判官の構成について、従前は各大陸から決まった人数が選任され、かつ常任理事国から1名ずつ選任される慣行があったが、近年の加盟国のバランスの変化でその慣行が崩れてきていること(北米・西欧・その他が1名減りアジアが1名増えた)や、②ロシアによるウクライナ侵略に関連し、ICJの管轄要件を満たすため両国の同意が必要であるところロシアの同意が取得できないため、ウクライナ側が、両国が加盟しているジェノサイド禁止条約の事前同意条項を前提にウクライナはジェノサイドを行っておらず、ジェノサイドを原因としたロシアの侵略が違法なものであることを求める提訴を行い現在審理中であるといったお話が印象に残りました。
3 ICC訪問
ICCは、集団殺害犯罪、人道に対する犯罪、戦争犯罪及び侵略犯罪といった国際人道法に反する重大な犯罪を裁くために、全権大使会議で採択された「国際刑事裁判所に関するローマ規程」条約に基づいて設立された国際機関です(ICJと違い国連機関ではありません)。
ICC訪問時には、ICC唯一の日本人裁判官である赤根智子判事と面談し、法廷施設やICCの制度等についてご説明いただきました。
ICCは非常に近代的な建物で、法廷設備も最新のIT技術を駆使したもの(書面や証拠の提出等がすべて電子化され審理中であっても効率的に確認可能であることや、証言内容が遂次で反訳されてディスプレイ上で確認できること等)となっており、日本の裁判手続の電子化を考える上で、非常に参考になると感じました。
一方、裁判ではローマ規程及びその下位法令が根拠となるが、ICCが取り扱う刑事裁判手続を包括的にカバーしてはおらず判例もまだ十分ではないため、解釈適用について裁判官の裁量幅が大きくなるにもかかわらず、裁判官の出身国や専門分野の違いで判断が異なり協議が難航するケースが頻繁にあると述べられていたことが印象的でした。
赤根裁判官からは、日本の法曹資格者の能力はICCにいる他国の法曹資格者と比較して見劣りするものではなく、ICCの発展のためにも、ICCに関わる日本の法曹資格者が増加してほしいとのお言葉をいただきました。
4 WIPO訪問
WIPOは、知財に関する条約や国際登録業務の管理・運営を行うとともに、途上国における知財保護促進に係る制度設計や教育サポート等を提供している国連機関です。
WIPO訪問時には施設見学後、日本の弁護士資格を持ちリーガルオフィサーとして働いている毛利峰子氏と面談し、現在の職務に至るまでのキャリア形成やWIPOでの仕事内容等についてお話を伺いしました。
毛利氏は、知財を専門とする日本の法律事務所での勤務後、スタンフォード大学LLMを卒業し、ミュンヘンにあるマックスプランク研究所で知的財産に関する研究生活を経るなど、知的財産に関わる最先端のキャリアを経ておられましたが、そのようなキャリアを有していても現在のポジションの獲得までご苦労されたようで、国連貿易開発会議(UNCTAD)でのインターンや経済協力開発機構(OECD)でのJPOを通じての勤務など、多彩な勤務経験を経て、WIPOでのポジション(オペレーション部隊のマネージャー)を獲得し、その後現在のリーガルオフィサーとしての勤務を開始されたとのことでした。
毛利氏の多彩なご経験は、日本の弁護士が国際機関でキャリア形成をしていくにあたって、非常に示唆的で勉強になりました。
5 IOM訪問
IOMは、紛争地、災害被災地、及びその周辺地域における人道復興支援の実施や、移民の人身取引問題に関連した被害者の救済や保護を行っている機関です。
ロシアによるウクライナ侵攻に対しても現地に滞在し、物資の緊急支援を行っているとのことで、訪問時には、Zoom会議を通じ、実際に現地に入っている日本人職員から現地での支援活動について説明を受けました。
6 パリ弁護士会
パリ弁護士会訪問時には、国際委員会委員長であるティエリ・アバレラ弁護士からパリ弁護士会の概要について説明を受けたうえで、日本の制度との違い等についてディスカッションを行いました。
内容は多岐にわたりますが、特に①フランスで導入されているCARPA制度(弁護士が他人の金銭を預かるための専用口座を弁護士会が設置、管理し、弁護士は預かり金の取り扱いに関し、必ずその口座を経由しなければならないという制度)が弁護士の預かり金をめぐる不祥事を防ぐとともに、弁護士会において金銭の送金元、送金先、送金理由をチェックすることが可能となり、マネロン対策の役割を果しているとのお話や②フランスでは女性法曹の比率が男性より高く、女性の視点が多く入ることで紛争解決に役立っているというお話は日本においても参考になると感じました。
7 パリ地方裁判所
パリ地方裁判所訪問時には、施設見学後、副所長であるミカエル・ハバロン氏からパリ地方裁判所の概要について説明を受けました。
地方裁判所は建築したばかりで、裁判所全体が明るくなるように採光に工夫を凝らしたり、職員が利用できる開放感のある野外テラスが上層階に設置したりするなど、非常にフランスらしいデザインが採用されていると感じる一方で安全のため防弾ガラスが多用されていたことも印象的でした。
8 最後に
今回、非常に短い期間ではありましたが、欧州の国際機関及び司法機関にかかわる様々な人々と交流を深めることができたことは、今後の弁護士人生を歩むうえで、非常に貴重な経験となったと実感しています。