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有松における歴史的建造物群の保存とまちづくりの課題等の調査

会報「SOPHIA」 平成28年10月号より

公害対策・環境保全委員会 委員 家 田 大 輔

1 はじめに

 当委員会では、都市景観保存の問題に取り組んでおり、その一環として歴史的建造物保護の重要性を指摘してきた。名古屋市緑区有松にある旧東海道沿いの町並みは、本年7月25日に文化庁より重要伝統的建造物群保存地区(以下、重伝建地区という)に選定された。重伝建地区は、文化財保護法上、個々の建物の保存にとどまらず、伝統的建造物群としてこれを取り巻く歴史的環境という面的な広がりを持つ対象を保存していくものである。有松の歴史的・文化的な建造物群を保存・承継し、いかに持続可能な町として形成していくのかを調査するため10月17日に有松調査を行った。

2 有松について

 有松は東海道の池鯉鮒宿と鳴海宿の間にあり、「有松絞り」という絞りが東海道随一の産業として育ち商工集落となった地域である。現在も江戸時代から引き継がれる町並みが残っている。有松の町並み保存の歴史は古く、1974年に、妻籠・今井町と共に「全国町並み保存連盟」を発足させ、日本における町並み保存運動の発祥の地であった。しかし、高度成長期に開発と隣合わせになった苦い経験もある。

 有松の町並みの写真.JPG

3 調査した内容

(1)調査においては、有松まちづくりの会の会長服部豊さんから、作り直すことができない原風景を守ってきた取組の歴史を聞いた。有松では、伝統工芸である絞りを中心とする文化の土壌が確立され、それが今日まで息づいている。建造物は幾度も危機にあったが、長年の保存活動を経て、ようやく重伝建地区になり町並みが将来に残される土台ができた。しかし、重伝建地区になったからといってすぐに変わるのではなく、5年10年かけて町を活性化させること、住む人が住みやすい町にすること、若い人に引き継いでいくこと等の課題がありこれからの取組が大切である。

(2)次に、NPO法人コンソーシアム有松鳴海絞(以下、CANという)理事長中村俶子さんから、有松を魅力ある町にするための取組を聞いた。中村さんは、有松を訪れた人が、町に滞在する時間に心を満たすことができるようなおもてなしが大切だと考えている。また有松には絞りという文化があり、先人達が作り出し、祭りなどで使用され続けているものには、今も若い人を触発させる力がある。
 現在、CANでは、築100年以上の歴史的建造物である空き家を「有松鳴海絞のライブラリカフェ」にする取組を行っている。クラウドファンディングにより資金を集めた上で、名古屋市から歴史建造物保存活用工事助成(クラウドファンディング活用型)による助成を受ける予定である(その後、本年12月後半に開業予定)。
(追記*その後、クラウドファンディングによる資金集めの目標額を達成し、改装工事・耐震工事が行われた。当初は大正期の建物と思われていたが、改装工事を進めると畳板裏から【弘化3(1846)年8月14日築】と書かれたものが見つかった。また、名古屋工業大学の夏目ゼミの学生と共同で照明や音楽映像等の施設設計が進められた。カフェは、平成29年2月7日から「SHOUKUROCAFÉ」という店名で、昼はカフェ、夜(午後5時から)は緑区にある酒造で作られた「醸し人九平次」が飲めるバルとして営業される。)

54頁2カフェ予定建物.JPG

4 住民の長年の努力により、有松はようやく重伝建地区に選定され、将来に向かって町並みが残されていく目処がたった。これからは建造物を活用しながら有松らしいまちづくりをしていくというソフトの面が重要である。現在、絞りを中心にして、有松に来る人や、住んでいる人にとっての拠り所が作られつつある。当委員会としても、有松の歴史的・文化的な建造物群の保存・承継について引き続き注目していきたい。