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子どもの事件の現場から (247) 「先生、わたし人間になっちゃった。」
会報「SOPHIA」令和6年2月号より
児童自立支援専門員 青島 あやの
タイトルの言葉は、8年前に私が担当したこどもが、寮の他児との人間関係に悩んだ時に言った言葉です。
自分が良ければそれでいい、他人なんて関係ないというスタンスで過ごしてきた彼女。様々な機関にお世話になった結果、当園に入所。他の入所児童や様々な職員と関わり、山あり谷ありの生活を経たことで変化し、どうしたら上手く人と関われるかという悩みを持つようになりました。自他ともに人間的な成長を感じた一言でした。
私が勤務しているのは、児童自立支援施設、愛知県愛知学園です。児童自立支援施設は、児童福祉法施行令第36条により都道府県に必置義務が規定されている児童福祉施設ですが、どのような施設なのか、一般的にはあまり知られていないかもしれません。
児童自立支援施設は、不良行為をなし、又はなすおそれのある児童及び家庭環境その他の環境上の理由により生活指導等を要する児童を入所させ、又は保護者の下から通わせて、個々の児童の状況に応じて必要な指導を行い、その自立を支援し、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設です。
入所児童数は全国で毎年約1000人前後を推移しており、入所理由は、窃盗、暴力、家庭内非行、性非行、不良交友、施設不適応、生活指導を要する、薬物...と様々です。非行系の子と発達障害の特性が強い子、性加害児と性被害児の子...。「地元の学校で同じクラスなら、絶対関わってないと思う。」 こども同士でもそう思うようです。そんな子たちが、24時間365日変わらないメンバーで生活しています。それぞれ入所理由も違い、人間関係やコミュニケーションに課題がある子が多いので、毎日何かしらの行動上の問題が勃発します。職員は、それに対してどう対応するか悩み、奔走しながら支援しています。
そんな生活で、こどもたちにどのような変化が起きるのか。入所してできるようになったことや良いところは何か。私の所属している寮のこどもたちに聞いたところ、様々な意見を出してくれたので、紹介します。
・生活面 ...「規則正しい生活が送れるようになった。」「3食ちゃんと食べるようになった。」「早寝早起きができた。」「普通に学校に通えるようになった。」
・能力面 ...「敬語。」「イライラがわかるようになつた。」「忍耐力がついた。」「説明力がついた。」「運動できるようになった。」「体力がついた。」
・学習面 ...「勉強が楽しくなった。」「学力がついた。」「学校の先生の教え方がうまい。」「かっこいい先生に出会えた。」 「寮の先生も学校の先生もいろんなことを教えてくれる。」
・余暇 ...「編み物ができるようになった。」「ピアノ上達した。」「好きなアニメができた。」「小説が読めるようになった。」「華道・茶道ができる。」
・その他 ...「優しい先生たちと会えたこと。」「当たり前の平和が持てる。」「目標が見つけられるようになった。」
環境次第で、こどもたちの可塑性や可能性は大きく変わります。安心安全を感じられる環境を提供し、安定した集団を維持するのは、時に難しく大変で、正解はないなと思うこともあります。ですが、日の前のこども一人一人と向き合い、共に成長する伴走者でありたいです。